ゴホゴホ苦しそうな遙香の背中をさする。
「大丈夫?……てか、遙香、もうとっくに経験してると思ってた……」
私がそう言うと、遙香は頬だけじゃなく目まで赤くなった。

「してへんわっ!……いや、してんけどさ。」

「いつ?」
燈子ちゃんが、ペリエにレモンをぎゅうぎゅう絞りながら聞いた。

「大文字の日。夏休み前から、すごく楽しい人らの仲間に入れてもろててさ、そのうちの1人のお父さんの会社のビルの屋上で送り火見ながらバーベキューして~、そのあと。」
遙香は浮かれた。

「誰と?その社長の息子?」
奈津菜がそう聞くと、遙香はちょっと詰まった。

「……違う。なっちゅん、ピンポイントで痛いとこ突くよね、いつも。」
そう言って苦笑いしてから、遙香はさばさばと続けた。

「まあ、素敵だな~、好きだな~って思ってるのは彼なんだけどね、彼は今の私には無理。もっとオトナの女になったらトライする。てか、彼の話はいいから!私のはじめての相手よ!誰だと思う!?」

遙香は1人で興奮してたけど、私達は返事できなかった。

しばらくして、燈子ちゃんが顔をしかめて言った。
「……あのさ~、何か色々ツッコミどころ満載というか……ま、いいや。つまり、あんたは好きでもない男にはじめてを捧げたの?」
奈津菜と私がすっかりどん引きで絶句している中、燈子ちゃんは果敢に代弁してくれた。

遙香は、私達3人の冷たい目線にすっかり鼻白んだようだ。
「もう!生涯に1人としかHできないわけでも、はじめての人と結婚しなきゃいけないわけでもないんやから、別にいいでしょ!一番好きじゃなくても、かっこいいな~、優しいな~、うれしいな~、ま、いっか、って思えたんだから!」

ま、いっか~?
そんな程度で、やっちゃうの?
「……遙香って、オトナなんだかコドモなんだかわからんわ、ほんま。」

私がそんな風につぶやくと、隣でムスーッとしてた奈津菜が足をバタバタさせて喚いた。
「オトナとかコドモとかの前に、ただのバカオンナやわっ!不潔っ!!!」

私は慌てて奈津菜をなだめようと背中を撫でた。
燈子ちゃんは、奈津菜にうんうん頷いて同意を示している。

世の女子高生には、援助交際なんぞも横行してるらしいけど、私たちには別世界の話。
統計を取ったわけではないが、彼氏がいる子はほんの一握り……だと思う。

純粋培養液の中で生ぬるく過ごす私たちにとって、遙香は異質な存在。
一学期の間だけで、少なくとも私の知る範囲では6人の男の子と付き合っては別れて、たまには二股をかけてたような気がする。
……実際はもっといると思われる。
いちいち名前を覚えてられない私たちは、面白がって「一郎くん」「二郎くん」「三郎くん」と遙香が付き合った順番に勝手に呼び習わしていた。

確か夏休み前の段階では、「四郎くん」と「六郎くん」とはデートしてたような気がするのだが。