翌朝は仏参のために早い電車に乗った。
仏参は学年ごとに曜日が違うので、副会長はいない。
しかし、朝練がない燈子ちゃんと一緒に登校できる数少ない機会。

「おはよ~。」
燈子ちゃんが桂駅から乗車してくる……ん?そうか、彩乃くんと同じ駅からなんや。

彩乃くん、嵐山線かな~、桂坂とか洛西ニュータウンからバスかな~、それとも駅の近くなんやろか。

「ね~ね~、燈子ちゃん、この人見たことある?」
昨日、奈津菜に見せたポスターの画像を燈子ちゃんにも見せてみる。

燈子ちゃんは一目見て、
「……あ~。」
と、低いトーンの声を出した。
「こいつ知ってる。嵐山線。しょっちゅうコクられてるし、いつも女の子を侍(はべ)らしてる。」

いやいやいや。
「それ、竹原くんやわ。その人じゃなくて、こっち。この髪の長い人。」

画面の表示を彩乃くんに合わせて燈子ちゃんに見せた。
燈子ちゃんは、じっと見てうなずいた。
「たぶん、わかる。何度か見たことある。この髪、目立つから。駅から徒歩5分ぐらいの建築会社。」

お家が、建築会社ってこと?
あの華奢な風体やし、現場でバイトしてるんじゃないよね?
どっちにしても、意外。

「何となく似合わへんから、ついガン見してしまったことある。自転車で通り過ぎながら。」
見るよね、やっぱり。
私もめっちゃ見てしもたもんなあ。

「恋愛、うまくいってるんちゃうの?」
「う……。いってない。てか、進んでへん。」

冬まで待て、って意味わからんかったけど、こういうことなんかなあ。
気長に距離を縮める努力を重ねていけば、変わるかな。

阪急電車を降りて四条大橋を渡る。
地下への階段を降りながら、創作ダンスの振り付けのステップをアレンジして踏む。
「恥ずかしいから学校でやって。」

と、燈子ちゃんに窘められながらも、私はいつもより朝早くて構内に人が少ないのをいいことに、手振りまでつけて踊っていた。

「燈子ちゃ~ん。この時の手のひらって、どっち向き?前?上?下?」

「前!」

「こう、ね。」

「違うって!前見て!」

「あれ?顔こっちじゃなかったっけ?前?」

「あきちゃん……」
覚えてたポーズと違う気がして腑に落ちず、私は手を上げたまま燈子ちゃんを見る。

燈子ちゃんが困った顔をして、そっと前方を指さした。

改札のすぐ横に、明らかに笑いをこらえている彩乃くんが立って居た。

「先、行くわ。」
燈子ちゃんが小声で耳打ちして、改札を通り抜けた。