ふと気づくと、電車が駅に着くたびに、立って居る女の子たちは場所を移動している。
ローテーション?
……完全にシステムが出来上がっている……お、おもしろい。

たった10分足らずの乗車時間なのに、毎朝こんなことが行われていることを私ははじめて知った。

彩乃くんだけは、むっつり黙りこくって窓の外を見ていた。
少し苛立っているような横顔に、私は、声をかけられなかった。

電車が烏丸駅に着いた。
「あきらけいこ、また、明日。」

……もう勘弁してほしい……と思うのだが、天使のセルジュの笑顔に私は逆らえない。
竹原くんは、私にではなく、周囲の女の子たちを見渡した。

「あきちゃんいじめた子は追放!みんな仲良くしぃや。ほな、いってきます!」
「「「いってらっしゃーい!」」」
竹原くんに応えて、まだ車両に残る女の子みんながそう言った。
……すごすぎるよ、竹原くん、アイドル?カリスマ?……この状況を楽しんでる。

最後に、彩乃くんが無言で立ち上がって顔を少し傾けるように会釈らしきものをして、行ってしまった。
彩乃くん、途中からクールモードに入ってた……衆人環視だからかな。

淋しいな。
宿題……宙ぶらりんやわ。

残された私は、ぽつんとボックスシートに1人。
河原町駅まではあっという間なのに、ものすごく長い時間に感じた。
竹原くんが釘をさしてくれたからか、表立って何か言われることはなかったけれど、明らかに私は悪口を囁かれていた。

追い抜きざまに「ブス」「地味」と言われたりもした。
……なんかもう……苦笑するしかなかった。
彼女らの気持ちがわかりすぎて。

私がせめて、遙香ぐらいチャーミングだったら、燈子ちゃんぐらい綺麗だったら、奈津菜ぐらいかわいかったら……ううん、たぶんどんな容姿でも文句は言われるか。
しかし、これが毎日続くのは、やっぱりしんどいなあ。

登校すると、奈津菜に驚かれた。
「あきちゃん、遅刻かと思ったわ!遅かったねえ。珍しい。」

私は、どーっと脱力して机に突っ伏した。
「朝から、疲れた。」

「大丈夫?体育、休む?」
「あ〜、早速、体育Bか〜。」
正直なところ1時間めから体育Bは、ちょっとしんどい気がした。

体育Bとは……ダンス。
いかにも女子校らしいカリキュラムだと思うが、我が校はダンスの授業が週1回ある。
とくに二学期は、グループごとに創作ダンスと決まっている。
……中1から高3までの全校生徒が、休み時間や放課後に学校の至る所で踊って練習しているのは、なかなか圧巻だ。

まあ、うちのグループには、ダンス部の燈子ちゃんがいるから安心!
今日も、ほとんど燈子ちゃんが考えて、振り付けをしてくれた。
ただ、けっこう柔軟性を求められてる気がする。