「あきちゃん、めっちゃご機嫌さん?」
燈子ちゃんにそう聞かれて、私は満面の笑みで返事した。

「うん!なんか、恋愛、とんとん拍子に進んでるみたい。」
「例のアンケートの彼?」
「うん!名前も学校もわかった!友達になった!なんか希望いっぱい!」

そう、私は希望に満ちていた。
恋よ、恋!


数日後。
お華のお稽古の時に、師に問われた。
華展に出す素材の相談と、もう1つ。
日本舞踊の名取試験の際のお茶出しを手伝えるか、と。

「わ!懐かしい!昔、お邪魔しましたよね?」

すごくタイムリーな話に私は心が弾んだ。
10年前、藤娘のあやのちゃんと出逢った場所だ。

私がお茶とお華を教えてもらってる師の師匠は、日本舞踊のお家元のお家の三女さん。
舞踊会や試験などの行事の時には、三女さんのお茶の社中さんにお手伝いを頼むことが多いらしい。
私は小さい頃に遊びに行っただけで、これまでお手伝いのお声はかからなかったのだが、高校生になりやっとお呼びがかかったようだ。

確かあやのちゃんは私と同い年やったはず。
名取試験、もう受けはったんかな。
そろそろかな。
綺麗になってはるやろうなあ……。
会いたいな。


日曜の夜、竹原くんからメールが届いていた。
朝、一緒の電車に乗り合わせないかと誘われた。

……どうも、私が1本電車を遅らせて桂で快速に乗り換えれば、彼らと同じ電車に乗れるらしい。
まあ、私はいつも8時過ぎに学校に着いて、図書館へ行ったり友達とおしゃべりを楽しんだりしてるので、1本電車を遅らせたところで遅刻することはない。

……副会長と同じ電車でなくなるのは少し淋しいかな。

結局、翌朝はいつもと同じ電車に乗った。
副会長に事情を話して、からかわれながら、桂駅で降車。
後方に移動して、13分後の快速に乗り換えればいいらしい。

ぼーっと待ってると、いきなり来た!
彩乃くん!

……たった13分……毎日毎日13分間の時間と車両が違うだけ……やったんやなあ。
ほんと、ご縁っておもしろい。

「おはよう。」
私がそう声をかけると、彩乃くんは私が合流することを聞いてなかったらしく、驚いていた。

「これ、こないだ借りっぱなしになってしもたハンカチ。ありがとう。」
そう言って、使ってないけどお洗濯してアイロンもかけたハンカチを彩乃くんにお返しした。

「ああ、わざわざ。いいのに。」
そう言いながらハンカチを受け取る彩乃くんの瞳が、ふっと優しくなったような気がした。

周囲がざわつく。
何かな?と、見回す。

あれ?
なんか、ここだけ、ちょっと空気が違う。
通勤ラッシュアワーなのに、若い女性ばかり?
色んな制服の高校生もいる。
女性専用車両、じゃないよね?