お花を活け終えて帰ろうとすると、彩乃くんに引き留められた。
「あき、帰るん?待ってて。」
……どうやら彩乃くんは、化粧も落とさずそのまんまで燈子ちゃんたちお弟子さんの指導をしていたらしい。
「はぁい。お稽古終わったん?ほな、待ってる~。」
私は、彩乃くんのお部屋で楽譜を眺めていた……さすがにココで歌うわけにはいかないので。
しばらく待つと、彩乃くんが戻って来た。
「義人呼んだん、あき?」
彩乃くんはしゅるしゅると帯を解き、着物を脱ぎながらそう聞いた。
「うん。今年のゴールデンウィーク、女舞じゃなくてガッカリしてはったし。」
彩乃くんは鬘を取り、羽二重帽子を脱いだ。
クリームを顔中に塗りたくり化粧を落とす。
ポンズとメイク落としシートの併用をお弟子さんから教えられたらしい。
あっという間に、美女が男の子に戻っちゃった……かっこいいけど。
その間に私は彩乃くんの脱ぎ捨てた帯や着物を衣紋掛けで釣って風にさらす。
手早く洋服に着替えた彩乃くんは、違い棚に置いていた桐の箱を私にくれた。
「これ、使い。」
え?
驚いて蓋を開けると、お扇子。
「買ってくれたん?」
……誕生日でもないのになと思いつつ、お扇子を開く。
水柿色の地紙にすすきと桔梗がたわんで風に揺れている。
骨は彩乃くんの好きな、春慶塗り。
「綺麗……。」
彩乃くんは隣の一回り大きな桐箱から舞扇を出して見せてくれた。
「お揃い。俺には地味やけどな。あきの好みならこんな感じかな、って。」
わざわざ私の好みで作ってくれたんや。
じ~~~ん。
でも、なんで?
「うれしいけど、高いのに……私の分まで作らんでええよ?彩乃くんには何本でも必要やけど、私は1本あればいいねんから。」
そう言ったら、彩乃くんにコツンと人差し指で額を小突かれた。
「あほ。あきはその1本をボロボロにしてるやろが。ええかげん、新しいのん買えっちゅうても頑固やし。これなら俺と一緒やし、使うやろ?」
うううう……うれしさと恥ずかしさと、ちょっとだけくやしさで、私はたぶん真っ赤になってるだろう。
「あ、ありがとぅ……。」
ひーん、反則だよぉ、彩乃くん。
こんなサプライズ、うれしすぎる。
早速私は新しい扇子でパタパタした。
お香のいい香りが、柔らかい風とともに鼻孔をくすぐる。
幸せ~、と目を閉じてパタパタしてると、ふわりと抱き寄せられた。
「去年の今日、電車の中で、あきが扇子を使ってるのを見て、心臓が止まるかと思った。」
彩乃くんが囁くように言った。
「去年の……今日、なんや。」
知らんかった。
てか、彩乃くん、やっぱりロマンティスト……再会記念日のプレゼントなんや、これ。
「お前、覚えてへんにゃ。」
彩乃くんは苦笑して私を見た。
「覚えてるけど、日ぃは気にしてへんかっ……」
私の言葉を聞きたくなかったのか、彩乃くんは唇で言葉を遮った。
綺麗なお顔を間近で見たくて、私はキスの最中、こっそりと薄目を開ける。
大好きな彩乃くん。
夢のように幸せだけど、これは夢じゃなくて現実。
そう実感して、また改めて幸せに浸った。
「あき、帰るん?待ってて。」
……どうやら彩乃くんは、化粧も落とさずそのまんまで燈子ちゃんたちお弟子さんの指導をしていたらしい。
「はぁい。お稽古終わったん?ほな、待ってる~。」
私は、彩乃くんのお部屋で楽譜を眺めていた……さすがにココで歌うわけにはいかないので。
しばらく待つと、彩乃くんが戻って来た。
「義人呼んだん、あき?」
彩乃くんはしゅるしゅると帯を解き、着物を脱ぎながらそう聞いた。
「うん。今年のゴールデンウィーク、女舞じゃなくてガッカリしてはったし。」
彩乃くんは鬘を取り、羽二重帽子を脱いだ。
クリームを顔中に塗りたくり化粧を落とす。
ポンズとメイク落としシートの併用をお弟子さんから教えられたらしい。
あっという間に、美女が男の子に戻っちゃった……かっこいいけど。
その間に私は彩乃くんの脱ぎ捨てた帯や着物を衣紋掛けで釣って風にさらす。
手早く洋服に着替えた彩乃くんは、違い棚に置いていた桐の箱を私にくれた。
「これ、使い。」
え?
驚いて蓋を開けると、お扇子。
「買ってくれたん?」
……誕生日でもないのになと思いつつ、お扇子を開く。
水柿色の地紙にすすきと桔梗がたわんで風に揺れている。
骨は彩乃くんの好きな、春慶塗り。
「綺麗……。」
彩乃くんは隣の一回り大きな桐箱から舞扇を出して見せてくれた。
「お揃い。俺には地味やけどな。あきの好みならこんな感じかな、って。」
わざわざ私の好みで作ってくれたんや。
じ~~~ん。
でも、なんで?
「うれしいけど、高いのに……私の分まで作らんでええよ?彩乃くんには何本でも必要やけど、私は1本あればいいねんから。」
そう言ったら、彩乃くんにコツンと人差し指で額を小突かれた。
「あほ。あきはその1本をボロボロにしてるやろが。ええかげん、新しいのん買えっちゅうても頑固やし。これなら俺と一緒やし、使うやろ?」
うううう……うれしさと恥ずかしさと、ちょっとだけくやしさで、私はたぶん真っ赤になってるだろう。
「あ、ありがとぅ……。」
ひーん、反則だよぉ、彩乃くん。
こんなサプライズ、うれしすぎる。
早速私は新しい扇子でパタパタした。
お香のいい香りが、柔らかい風とともに鼻孔をくすぐる。
幸せ~、と目を閉じてパタパタしてると、ふわりと抱き寄せられた。
「去年の今日、電車の中で、あきが扇子を使ってるのを見て、心臓が止まるかと思った。」
彩乃くんが囁くように言った。
「去年の……今日、なんや。」
知らんかった。
てか、彩乃くん、やっぱりロマンティスト……再会記念日のプレゼントなんや、これ。
「お前、覚えてへんにゃ。」
彩乃くんは苦笑して私を見た。
「覚えてるけど、日ぃは気にしてへんかっ……」
私の言葉を聞きたくなかったのか、彩乃くんは唇で言葉を遮った。
綺麗なお顔を間近で見たくて、私はキスの最中、こっそりと薄目を開ける。
大好きな彩乃くん。
夢のように幸せだけど、これは夢じゃなくて現実。
そう実感して、また改めて幸せに浸った。