始まりは母親である美穂子の理解不能な言葉だった。
「若菜、今日から若菜の家庭教師をしてくれる事になった遼君よ。ご挨拶して?」
……は? 家庭教師?
「いやいやいや。家庭教師とか、初耳なんですけど」
放課後。時刻は17時。
高校から帰宅して、リビングに入った途端見ず知らずの男の人を紹介されて。
私は立ち尽くしたまま、頭を混乱させた。
目の前のソファには母親が言った通り、一人の男の人が座っている。
ネルシャツにジーンズとラフな格好で、黒髪に黒縁眼鏡を掛けていて、いかにも真面目そう。
若く見えるけど……何歳?
この人ちゃんと信用出来るわけ?
男の人を観察しながら、私はそんな事を思っていた。