結婚――。

 考えないわけではない。

 三十ニにもなれば、母親の言うとおり、周りはどんどん結婚して子供を産んでいく。

 最近、あっちでもこっちでもラッシュを迎え、親友とご祝儀で飛んでいった金額を競ってしまうくらいだ。

 もちろん四十を越えて、独身を貫いている知り合いもいれば、離婚をしたり、晩婚をしたり。

 色んな人がいるのも分かっている。

 結婚するつもりだった相手にあんな振られ方をしたからだろうか。

 それとも結婚なんてしなくていい。そう思っていた時期が長かったからだろうか。

 結婚に対してのビジョンが全く浮かばないのだ。

 もちろん、ユウジに不満があるわけじゃない。

 むしろ感謝しているくらいだ。

 こんな可愛い気のない年上の女を、可愛いと言って、抱きしめてくれるのだから。

 ユウジと結婚したら、彼が作った美味しい手料理を食べて、彼に愚痴を聞いてもらいながら、毎日穏やかに過ごせるのだろうか。

 時々、真依子が作った見た目も味も中途半端な、料理とも言えない料理を「真依子さんが一生懸命作ってくれたんだから美味しいよ」と言われながら、過ごすのだろうか。

 そもそも、彼は結婚したいのだろうか。あたしと――。

「真依子さんとずっと一緒にいられたらいいのに」

 何度もそう言われたことはある。

 でもそれがイコール「君と結婚したい」ではないことを、真依子は知っていた。

 それならいっそ「あたしと結婚したい?」と聞いてみたらどうだろう。
 
 もしそれで「結婚なんて考えたことない」なんてユウジの口から返ってきたら、今度こそ本当に立ち直れない気がする。

 真依子は無理やり左手を伸ばしてカーテンを半分閉めると、枕に顔を埋めた。