真依子はなるべく声を落ち着かせてから、呟く。

「仕事だからもう、行かなきゃ。とにかくハガキは処分して」

 ひどいランチになった。

一気に食欲がなくなって、とてもじゃないが牛丼を食べられそうになかった。

 これなら新人とおにぎり食べていた方がまだマシだったかもしれない。

 真依子は大きなため息を一つ付くと、牛丼屋の駐車場から離れた。

 少しでも何か口にしておかないと、今日は金曜日だ。

 夕方はいつもより患者が多く病院へ来るのは分かっていた。

 ちょうど青になった横断歩道を走る。いつものコンビニへ。

 今思うと、なんであんな男と五年も付き合っていたのだろうと、当時の自分を叱咤したくなる。

 いや、違うか。

 今のあたしだからそう思えるのかもしれない。

 真依子は缶ビールを飲み干した。

 浩一とは、親友に誘われてイヤイヤ参加した合コンで出会った。
 
 合コンなんかに来る男はロクなヤツはいない。

 そう思っていた真依子は、会話にはロクに参加せず、隅でひたすらお酒を飲んでいた。

 隣に座った浩一がビールしか頼まない真依子に、「自分はワインショップで働いているんだけど」とワインの良さを語りだし、そのうちに彼は、頬を赤らめながら仕事の話を延々としだした。

「ビール派の君を、ワイン派にしたい!」

 最後にはそう言って、合コンなんかと思っていた真依子との次のデートを、すんなりと取り付けたのだった。