――可愛げがない。そんなのは自分が一番良く分かってる。

 真依子は持っていたビールジョッキを握り締めると、ゴクゴクと飲み干す。

「ちょっと! 生一つ追加ね!」

 遠くにいた店員に片手を上げながら大声でそう叫ぶと、彼は分かりやすくムッとした表情をした。

 見慣れない顔だ。新人なのだろうか。
 
 それでも、その態度の変化を真依子は見逃さなかった。

「接客業でしょ。なにあの顔」

 枝豆を一つ口に放り込むと、真依子は、貧乏ゆすりをしそうになった右足をぐっと堪えた。
 
 短く切りそろえた髪を、耳の後ろにすっとかけると、頬杖をつく。

 今日は本当にイライラすることが多い。
 
 新人の若い子が絶叫しそうになるほどありえないミスをするし、それを注意してる最中に、偶然来店したエリア担当の男に「若い子をあんまりいじめちゃダメだよ。可愛げなく見えるよ」なんて、イヤミを言われるし。


挙句、新人は「すみません。今日は親の誕生日なんです」なんて言いながら、1時間も早く帰ったのだ。
 
 おかげで一番忙しい時間をパートと二人で回さないとならなくなった真依子は不機嫌絶好調だった。