私には、『友達』と呼べる人がいてない。

クラスでは、大抵一人でいることが多かった。

私の席は窓側で、グラウンドがよく見えた。

今も生徒たちが、グラウンドで走っている。

私は、『咲坂千波【さきさかちなみ】』。

艷やかな黒髪に、パッチリとした二重瞼、スラッと通った鼻筋。

私は、自分で言うのはどうかと思うが、綺麗な顔立ちをしていると思う。

だから、よく男の子に呼び出され、告白されている。

だが、すべて断っていた。

私は、センセイのことが好きだったから‥‥‥‥‥。

『海江田陸【かいえだりく】』。

それが、センセイの名前だった。

ハンサムで、大人で優しくて、女の子たちからの人気もあった。

生徒たちからは、『陸センセイ』と呼ばれている。

私がセンセイに恋したのは、木に登って、下りられなくなった子猫を助けようとした時、折れた枝から、落ちた私を助けてくれたのがきっかけだった。

「良かったな。咲坂も、子猫も、無事で。」

そう言って、センセイは、心底安心したように笑った。

私は、その笑顔に『見惚れてしまった』。

つまりは『一目惚れ』してしまったのだ。

その日を境に、私は、センセイを見続けてきた。

そして、センセイ以外の人には、まったく媚びず、女の子たちのグループに入りたいとも、全然、思わなかった。

完全な一匹狼状態。

センセイは、そんな私を心配してくれたが、私にはどうでもいいことだった。

私には、『センセイ』だけがいてくれればいいのだから‥‥‥‥‥。