苦行のような食事を終えると、ご当主は
「ほな、竹原。来週、頼むわ。由未ちゃんも一緒においで~な。おやすみ。恭匡(やすまさ)、後はよろしゅう。」
と言い残して、退出された。

「私達も、やすみます。百合子、いらっしゃい。」
続いて、おばさまも立ち上がる……おばさまは最後まで私達のほうを見なかった。

逆に、百合子姫は、食事中もずっと私を睨んでた……。

彼らの退出の間、ずっと頭を下げていた父が、ため息をついて顔を上げる。

「従妹が大変失礼致しました。」
恭兄さまが、父をねぎらうようにそう言った。

「あいかわらず、ですね。」

父が苦笑まじりにそう言うと、恭兄さまも肩をすくめた。

「あの2人は一生あのままでしょうか。恥ずかしくて、とても天花寺(てんげいじ)には復姓させられません。早く再婚して出ていってほしいものです。」
そう言ってから、私のほうを向いた。

「由未ちゃん、ごめんね。嫌な想いをさせたね。」
私は、ぶんぶんと首を横に振った。
……確かに怖かったけど、恭兄さまが私をかばってくれたから。

「汚したのは私やのに、ありがとう……ございました。」

そう言うと、恭兄さまは、私のお膳の真ん前にやってきて膝をついた。
「はい、お口直し。」
そう言って、また「おいとぽい」を口に入れてくれた。

じゅわっと溶けて優しい甘い香りが口の中に広がると、緊張してた心まで、ふわっとほどけた気がした。
目を閉じて、ふふ~ん♪と、残り香を楽しんでいると、父が私の肩を叩いた。

「じゃあ、帰ろうか。恭匡(やすまさ)さま、今日は、由未をかばってくださって、ありがとうございました。来週また伺いますので、よろしくお願いします。片付けは、うちの原が致しますので。」
父はそう言いながら、私ごと、頭を下げた。

恭兄さまは、頷くように会釈した。
「ごきげんよう、竹原さん。」

父が立ち上がり、私も慌てて立ち上がる。

「由未ちゃんも、またね。」
恭兄さまは、ひらひらと私に手を振った。


帰宅すると、すぐに私は兄のところに飛んでいった。
「お兄ちゃん、げせん、ってどういう意味?」

兄の義人は、さっと顔色を変えてこわばった。
「誰に言われたんや!?……天花寺(てんげいじ)で、そう言われたんか?」
兄は怒っていた。

私は、怖くなって、半泣きになった。
「……天花寺の……百合子姫が、そう言って、ずっと睨んではって……」

「百合子……あの女……」
兄は唇を噛んだ。

「由未、敵(かたき)をとってやる。来週は俺も行くぞ!」