私は驚いて恭兄さまを見た。
恭兄さまは、私の反応をニコニコと楽しそうに見ていた。

「スプーンを使わずに、手で持って食べてごらん。」

私はうなずいて、普通の粽のように、ぱくっと口に入れた。
笹の香りが口にも鼻にも広がり、葛の爽やかな味わいが際立った。

「……もうなくなっちゃった。」
決してがっついたわけではないのに、あっという間に喉の奥に消えてしまった。

恭兄さまは、小さなガラスのお猪口(ちょこ)のような器を持って、氷の急須から濃い緑の液体を少しだけ注ぐ。

「はい、氷出し玉露。」

ものすごく苦そうな濃い色だったが、口に含んでみると、むしろ甘くて驚いた。
冷たい深いお茶の味わいが、ほんのわずかな量なのにしみ渡る。

「すごい……」
「気に入った?」

私は、何度もぶんぶんと首を上下に振って、うなずいた。
「うん!めっちゃ美味しい!どっちも、こんなん、はじめて!……です。」

恭兄さまは、私の頭を撫でてくれた。
「そんなにがんばって敬語を使わなくてもいいんだよ。僕は素直な感想が聞けたほうが、うれしいから。」

そう言われても、私はやっぱりぎこちなくしか話せなかった。
父も兄も敬語で話す人に対して、私が気安くタメ口なんてできるわけがない。

恭兄さまが、可愛がってくれてるのはよくわかったが、どうしても緊張感は消えず、打ち解けるには至らなかった。

……だから、以後も、ずっと、恭兄さまは私を気に懸けてくれたのかもしれない……

「じゃ、次!羊羹粽(ようかんちまき)。」
「……羊羹嫌い……」
「これは大丈夫だから。美味しいよ?」

……羊羹と言えば!な老舗有名和菓子屋さんの羊羹がとても食べられない私は、じりじりと後ずさりした。

恭兄さまは、楽しそうに、羊羹粽を持って迫ってくる。
「由未ちゃんが小豆を嫌いな理由って、食感と甘すぎること、だったよね?これは、ちゅるっ!だから。」

そう言いながら、恭兄さまは藺草をほどき、笹を剥いた。
私にとっては忌々しいあんこ色のぷるぷる。

恭兄さまは、嫌がる私で完全に遊んでいた、と思う。
「はい、お口を開けて……」
と、立場上、逆らえない私が渋々開けた口に、恭兄さまは羊羹粽を食べさせた。

……あれ?じゃらじゃらしない……美味しい……と、感じた瞬間

「恭匡(やすまさ)さん。おままごとで遊ぶ歳でもありませんでしょう。」
と、怒りを含んだ女性の声がした。

驚いて、私は羊羹粽をちゅるりんと喉に流し込んでしまった。