大学も慣れ始めてきた頃、
(私の場合友達ができるかどうかより教室の場所を把握することが重要だったから他の人たちより時間はかからなかった。)


三限の韓国語に向かうまえにトイレに入っているとこんな声が聞こえた。

 「ねー。あの西野澪って子いるじゃん?」

「あーあのめっちゃ派手な子ね!髪の色すごいよね」
(同感)

「あの子さあ、高校の時キャバクラやっててそこでの客との間に子供出来て堕ろしたらしいよ?」

「まじ?やば。なんかもうすでに先輩ともって聞いた~」



ほう。なるほど。納得。
わたしのイントネーション馬鹿にしただけあるね。なんて思ってトイレを出ようとした時、



「あっ」
さっきまでピーチクパーチク共鳴しあってた甲高いカナリア女子大生たちの声が消えた。


うわ、ご本人登場パターンか。
これモノマネ王座決定戦なら最高だけど、今は最悪じゃんね。ていうか出れないなあ。なんて思って開きかけの扉を閉じた。


扉の中でも感じるじりじりとした空気感。なんだかわたしまで気まづくなってしまった。


するとその空気を切るように澪が、

「高校のときキャバクラで働いてたのはほんとだよ。その後はちょっと違うなあリサーチ不足だね~。おしい!澪検定失格~」



その後のことはよく覚えてないけど、私は普通に三限にでたし、澪もでてた。 


いつもと変わらないし、私は澪にそのことを話すでもない。澪も相変わらずよくわかんない韓国語で先生にはなしかけていた。

いつもと変わらない。

ただなんとなく、なんとなくその日から右斜めの西野澪の存在がわたしのなかでおおきくなっていった。

いまおもえば、あのとき、おもいっきりドアを開けて、そんな根拠のないうわさ話より楽しいことたくさんあるよなんていってやればよかったなって後悔してる。