「菅野、気をつけろよ!フラついてるぞ!」


「ん⁉︎ 」


声の主を確認しようとして、菅野は後ろを振り返った。
その途端これまで以上に強い風が吹いて、菅野の立ってた脚立は大きく傾いた。


「ぎゃああああ!」


およそ女らしくも無い叫び声と共に、落ちてきそうになった菅野を受け止めた。

古本100冊並みに重い体重を腕で支えながら、「大丈夫か?」と声をかけたら………




ぎゅう……


ものスゴい力で抱きついてきたんだ。
後にも先にも、あんな力強さで抱きつかれたことはねぇと思うくらい。


でも、その体は少し震えてて。



「こ、怖かった……」



相当ビビったんだろうなぁ。
その後暫く、菅野は店内でも脚立に上る度にオドオドしてたから。


でも、あの時、腕の中で震えてる菅野は極めて女子だった。
閉じられてる目が直ぐ間近にあって、ドキン!と胸を打たれたのは確かだ。


相手は菅野だぞ⁉︎ …って、何度も思った。
でも、気がつくと奴を目で追ってる毎日に変わってて。


仕事してても一緒に飲んでても、くるくると変わる菅野の顔をずっと眺めていたい気分に襲われた。






(末期だな…)


菅野みたいな女に惚れるなんて、俺は余程の物好きだと思う。

でも、菅野がレジ打ちしながら他の男性客と楽しそうに話してるのを見ると、軽く嫉妬の炎が燃え上がるんだからアホだよ。