ドアの前に立つ。

名前の所には 篠本恭様 としか書いてない。

・・・・個室なんだな。

入るのが怖い。でも、行かないと。

「どうぞ。」

先生がドアを開けてくれた。

後ろで、バタンとドアが閉まる。

・・・・顔があげられない。

視界の隅にベットがあるのが見える。

怖い、怖い、怖い、怖い。

・・・・おじいちゃんが死んで、棺桶にお花を入れる時もこんな感じだったな。

いや、縁起でもないこと言っちゃだめだ。

「飲み物買ってくるね。」

篠本先生が、私に気お利かせたのか、出て行ってくれた。

しばらくは、ただ下を見る。

でも・・・・・

パッと顔を上げる。

当然だけど、ベッドの上には恭君がいた。

とても、穏やかな顔。

死んだわけじゃないから、こんな言い方するのもおかしいけれど。

学校では吊っちゃってる目も、人を寄せ付けないオーラもない。

昔の、優しい、恭君。

これが本当の姿なんだろうなと思う。

優しい、って言葉がぴったりの。

ポタッ

さっきまで止まっていた涙が、出てきた。

頬を伝うしずくが、床に落ちていく。

私がつらいとか、そうしなきゃいけないとかではなく、純粋に思った。

神様、私はどうなってもいいから、恭君を助けてください。