今まで、なかった感情が胸の奥から湧いてきた。


「……ロン…ド」



パリッと着こなしたロングコートが、ふわふわと柔らかく感じた。



このまま、ずっと抱き締めていてほしい。

ずっと傍にいてほしい。


そう思うこの感情は、きっと

『愛しい』



わたしは、ぎゅっとロンドを抱き締め返した。


「……苺………子」

「え?何か言った?」

「いいえ。何でも」


ロンドは小首を傾げて微笑むと、くるりときびすを返した。


「さて、帰りましょうか?」

そう言うと、ロンドはわたしの家の方向へと、歩いていく。

「え、何で家の方向わかるの?」


わたしの質問に、ロンドは

「死神の特権デス」

と答えて、わたしの手を取った。


「イチゴサン遅いデス。
早く帰らないと、リンゴが待ってマスヨ?」

「えっ!?」


リンゴというのは、うちで飼っている七歳のパピヨンのことだ。


「何で知ってるの?」

「…それも死神の特権デス」


ロンドはそう答えて、素早く前を向き、歩きだした。