しばし無言で睨み合っていたが、静かに牢人が抜刀した。

「抜け」

 切っ先をぴたりと林太郎の左目につけて言う。

「お前はあの男と、何の関わりがある。さして深い関係があるとも思えんが。大方金で雇われたクチだろう?」

 牢人が姿を現したのは前回からだ。
 おそらく林太郎に手を焼いた遊び人が、賭場かどこかで知り合った牢人を、金をちらつかせて仲間に引き入れたのではないか。

 牢人であれば金に困っているだろうし、腕が立つなら剣で金を稼ごうとするはずだ。
 そのもっとも簡単な方法が、こういった殺しの依頼や辻斬りである。

「この上で俺を斬ったところで、最早雇い主はおらぬぞ」

 ちょい、と林太郎は、先の路地を指した。
 そのようだな、と牢人は呟き、だが構えはそのままに、真っ直ぐに林太郎を見た。

「今は、純粋にお前と勝負してみたいのだ」

 嬉しそうに言う。

「ちんけな雇い主のわりに、いい相手と巡り合えた。なるほど、確かに奴に技量を見抜く力はない。だからこそ、無謀にもお前に立ち向かったのだ」

 薄く笑いを浮かべながら、牢人が言う。
 遣い手であるほど、好敵手と立ち向かうことに快感を覚える。

 人を斬ることを楽しむのならなおさらだ。
 命懸けの斬り合いほど、楽しいものはない。