闇の中を、一人の男が駆けている。
 男は路地に走り込むと、ようやく速度を落とした。
 荒い息を吐きながら後ろを窺い、引っ提げていた抜き身を鞘にしまう。

「……っはぁっ……」

 大きく息をつき、傍の板塀に寄りかかる。

---あいつら……。お志摩(しま)を狙ってた奴らだな---

 飯を食いに出たところで、男たちに襲われたのだ。
 これまでも何度かそういうことはあったが、いかにもなヤクザ者だったため、難なく追い払えた。

 しかし今回は、牢人体の遣い手がいたのだ。
 己らだけでは歯が立たないと見て、助っ人を雇ったらしい。

 金で殺しを請け負う奴ほど怖いものはない。
 それなりに遣い手であるのが普通だし、人を斬ることに躊躇いがないからだ。