朝、目を覚ました私は急いで階段を降りて、リビングの机の上を確認する。
いつも私が起きたときには両親は仕事に行ってて、ママはいつも手紙を添えて朝ごはんとお弁当を作って置いといてくれる。
だから、それがあるか確認したくて、ママが昨日帰ってきたのか知りたくて。
リビングに繋がるドアを開けるとそこにはいつもの景色があった。
お弁当とご飯が置かれていた。
手紙の内容はいつもより長くて、読むのに時間がかかった。
ううん、何度も何度も読み返してたから長かったのかもしれない。

『結麻へ。
昨日はごめんね。
ママは結麻のことキライになったわけじゃないから、勘違いしないでね。
今日も結麻にとってより良い1日に、そして、記憶に残る1日になりますように。
 ママより。』

最後の文はいつもママが書いてくれる言葉。
でも、違ったのは記憶に残るってところ。
いつもそんなこと書かない。
ママは病気のことを気にして書いてくれるんだなって思った。
ママは優しい。
私が泣きそうな時はわざと楽しい話をして笑わせてくれる。
だから、これもきっとママの優しさだ。
ねえ、ママ?
私ね、ママに言われなくても記憶に残る1日にしようって思ってたよ?
だって、病気だって分かったときからイヤでもどんなことも記憶に残るようになっちゃったから。
だから心配しないでね。
私、頑張って今を生きるから。

ママが作ってくれたご飯を食べながら、自然と涙が出てきた。
やば、最近涙腺緩んでる…。
そんなことを思いながら、ご飯を食べていると、

ピンポーン

誰かがチャイムを鳴らした。
誰だろ。

「はーい。」

誰か分からないけど、とりあえず涙だけ拭って玄関のドアを開けた。
目の前には、大好きな廉くんがいた。
反射的に、顔を下に向けてしまった。

「どうしたの?」

「電話したんだけど、出なかったから。
心配になって…。
昨日も元気なかったしさ。」

急いで来たらしい。
自転車なのにすごく息を切らしていた。
そんな廉くんを見ていても、また涙が出てきそうだったけどそれは我慢をした。
でも、廉くんには隠せなくて。

「あれ?泣いてる?」

「泣いてないよ。」

下を向きながら言ったせいかもしれない。

「泣いてんじゃん。」

そう言って廉くんは私のことを抱き寄せた。
気付いたときには廉くんの胸の中にいて、泣きじゃくっていた。
これじゃ、昨日ママと一緒にいたときと同じじゃん。
そう思ったけど、涙はそう簡単には止まってくれない。

「なんかあった?
それとも、俺が来てくれてそんなに嬉しかったの?」

廉くんは冗談も交えながら優しく聞いてくれた。
嬉しかったんじゃなくて、びっくりしたんだよ。って伝えたくても今の私にはそれを伝えることもできなくて、ただ泣くことしかできなかった。

「なー、結麻?今日、学校サボろ?」

少し迷ったけど、結局は首を縦に振った私。
廉くんはそう答えると思っていなかったのか「マジかっ!」って言ってたけど、
そのまましばらくはこの状態でいるしかなかった。

私が落ち着いてくると、廉くんが

「で、どうしたの?」

って聞いてきた。
病気になったなんて言えなくて、

「昨日の夜、ママと喧嘩しちゃって…。
でも、お弁当あったから嬉しくて…。」

廉くんは一瞬固まってしまったけど、すぐに話を戻した。
廉くんは私とママは仲がすほい良いことを知っている。
なのに、こんなこと言っていたらウソがバレるに決まってる。
そんなこと、分かりきってたことだけど言ったばっかでウソなんて言えなかった。

「あー、そっか。
俺でもそれ泣いちゃうかも。」

そうやって言って笑顔を見せた廉くんはいつもとは少し違っていた。
でも、あえて聞かないでいてくれてるのか何も聞き出そうとはしてこなかった。

「腹、減んない?」

いきなりそうやって言って立ち上がって私の家のキッチンをあさりはじめる。

「あっ、私なんか作るよ。」

これでも料理は得意な方。
ママがいないときはパパと2人で私が毎回夜ご飯を作っていた。
だから、廉くんにもお腹すいたって言われるといつもご飯を作ってあげることが多かった。

「やったね~~!!」

廉くんはものすごく喜んでくれて私もつられて笑顔になる。

「やっと、笑った!」

「えっ?」

「結麻、昨日からずっと元気なかったし、笑ってても本当の笑顔じゃないっていうかさ…
だから、やっと結麻の笑顔見れたなって。」

「ごめんね、そんな心配させちゃって。
大丈夫だよ、だから、もう心配しないで、ね?」

「おう!
お腹すいたっていうのウソだから飯作んなくていーからな!」

「何それ~。」

2人でやっと楽しく会話ができた気がした。
廉くんはよく私のことを見て、気付いてくれる。
そんな何気ない気遣いも廉くんの優しさだと思って、その度に好きだなって感じる。

「俺、今日はもう帰るから。
お前は寝とけ。目の下、クマできてんぞ!カワイイ顔が台無しだぞ~。
だから、寝ろ!これ、命令なっ!」

廉くんはそう言って笑顔を見せて自分の荷物を持って帰ろうとする。

「あっ、待って!
ありがとね。少し気持ち楽になったから…。」

「おう!明日も迎えに来るからな!ちゃんと寝ろよ~。
じゃあなー。」

「うん。バイバイ。」

そう言って廉くんは帰って行った。
洗面所の鏡で自分の顔を見てみると目の下には廉くんが言ってた通りクマができていた。
今日は、寝よう。
そう思って、自分の部屋に戻って、また深い眠りについた。