……ざわついてた学食内が一瞬シーンとした。
恥ずかしい。
いたたまれず、私は立ち上がった、ら……スーッと視界が色を失った。
まずい……
そう思った時には聴覚もおかしくなった。
まるでプールの底に沈んでいくかのように……音がくぐもり、視界が揺れ、私は崩れ落ちた。
気づいたら、白い部屋に寝かされていた。
心配そうに、加倉が覗き込んでいた。
「……気分、どうだ?」
「わかんない。私、倒れたの?貧血?」
そう言って起き上がろうとすると、頭痛と腹痛に襲われた。
「痛い……お腹と頭……。生理?」
そうつぶやいて、再び枕に頭を戻して、息をついた。
よく見ると、加倉のすぐ後ろに眼鏡と白衣の似合う若いドクターがいた。
「山崎です。」
「……どうも。すぐ帰れますか?」
山崎医師は、加倉と顔を見合わせてちょっとためらいを見せた。
何?この雰囲気。
「え?何?加倉のオトモダチ!?」
思わずそう聞くと、山崎医師は目を見開き、加倉は逆に顔をしかめて赤くなった。
図星か。
改めて山崎医師を見る。
……いかにも神経質そうな……ゲイっぽ~いイケメン。
なるほどなあ。
「ほんっと、加倉って面食いなのね。へえ~。へえ~。」
「……お前に言われたかねーよ。」
憮然とする加倉の肩に、山崎医師が手を置いた。
「否定はしませんが、院内では内密にお願いしますね。……それより、紫原さんの失神ですが……初期流産でした。」
「はあ?」
予想だにしてなかった言葉だった。
流産?
流産って、子供が死んじゃうことよね?
誰の?
私?
私の中に、上総んの子供が……宿ってたの?
嘘……。
全く実感がなくて、ただただ呆然とした。
「……自覚されてませんでした、か。……普段から生理不順らしいですね。」
加倉がうなずいてるのを、ちょっと睨む。
何でそんなことまで把握してんのよー。
むかつく!
「まあ、よくあることですし、あまりお気にされないことですね。化学的流産という名称はついてますが、医学的には流産には含まれません。ただ、失礼ですが、それだけ病的に細いと生理不順以外にも弊害が出るでしょうね。」
「化学的流産……」
「ええ、ケミカル・アボーション。流産したことにも妊娠してたことにも気づかないヒトも多い症例です。普段より生理が遅れたり、重いと感じる程度のヒトが多いようです。貧血と痛みが治まったら帰っていただいてけっこうですよ。」
「……わかりました。ありがとうございます。」
まだ痛いけど、私は無理矢理起き上がった。
「顔しかめて、まだ痛いんだろ。しばらく寝てろって。……もうそろそろ上総が来るから。」
はあっ!?
思わず、加倉に枕を投げつけた。
「上総んに言うたんか!?最低!デリカシーないんじゃ!くされホモ!」
「待てっ!お前!ひどっ!うわっ!」
布団もシーツも毛布も、山崎医師のカルテも、手当たりしだい、加倉に投げつけた。
「学美っ!」
バンッと大きな音をさせて、ドアが開いた。
上総んが真っ赤な顔に汗をいっぱい滲ませて飛び込んできた。
肩で荒い息をしながら、私に近づいてぎゅーっと抱きしめた。
「学美……頼むから……結婚して。もう、俺……こんな想いしたくない……」
涙が私の髪に、頭皮に降ってきた。
泣いてる……。
上総ん、本気だ。
本気で、私と結婚しようとしてる。
……結婚……。
思わず私は、両手で上総んの胸をドンと強く押して突き飛ばした。
ゴホッと咳をして上総んが胸を押さえた。
「別れる。」
私の口からは、思ってもみなかった言葉が飛び出した。
恥ずかしい。
いたたまれず、私は立ち上がった、ら……スーッと視界が色を失った。
まずい……
そう思った時には聴覚もおかしくなった。
まるでプールの底に沈んでいくかのように……音がくぐもり、視界が揺れ、私は崩れ落ちた。
気づいたら、白い部屋に寝かされていた。
心配そうに、加倉が覗き込んでいた。
「……気分、どうだ?」
「わかんない。私、倒れたの?貧血?」
そう言って起き上がろうとすると、頭痛と腹痛に襲われた。
「痛い……お腹と頭……。生理?」
そうつぶやいて、再び枕に頭を戻して、息をついた。
よく見ると、加倉のすぐ後ろに眼鏡と白衣の似合う若いドクターがいた。
「山崎です。」
「……どうも。すぐ帰れますか?」
山崎医師は、加倉と顔を見合わせてちょっとためらいを見せた。
何?この雰囲気。
「え?何?加倉のオトモダチ!?」
思わずそう聞くと、山崎医師は目を見開き、加倉は逆に顔をしかめて赤くなった。
図星か。
改めて山崎医師を見る。
……いかにも神経質そうな……ゲイっぽ~いイケメン。
なるほどなあ。
「ほんっと、加倉って面食いなのね。へえ~。へえ~。」
「……お前に言われたかねーよ。」
憮然とする加倉の肩に、山崎医師が手を置いた。
「否定はしませんが、院内では内密にお願いしますね。……それより、紫原さんの失神ですが……初期流産でした。」
「はあ?」
予想だにしてなかった言葉だった。
流産?
流産って、子供が死んじゃうことよね?
誰の?
私?
私の中に、上総んの子供が……宿ってたの?
嘘……。
全く実感がなくて、ただただ呆然とした。
「……自覚されてませんでした、か。……普段から生理不順らしいですね。」
加倉がうなずいてるのを、ちょっと睨む。
何でそんなことまで把握してんのよー。
むかつく!
「まあ、よくあることですし、あまりお気にされないことですね。化学的流産という名称はついてますが、医学的には流産には含まれません。ただ、失礼ですが、それだけ病的に細いと生理不順以外にも弊害が出るでしょうね。」
「化学的流産……」
「ええ、ケミカル・アボーション。流産したことにも妊娠してたことにも気づかないヒトも多い症例です。普段より生理が遅れたり、重いと感じる程度のヒトが多いようです。貧血と痛みが治まったら帰っていただいてけっこうですよ。」
「……わかりました。ありがとうございます。」
まだ痛いけど、私は無理矢理起き上がった。
「顔しかめて、まだ痛いんだろ。しばらく寝てろって。……もうそろそろ上総が来るから。」
はあっ!?
思わず、加倉に枕を投げつけた。
「上総んに言うたんか!?最低!デリカシーないんじゃ!くされホモ!」
「待てっ!お前!ひどっ!うわっ!」
布団もシーツも毛布も、山崎医師のカルテも、手当たりしだい、加倉に投げつけた。
「学美っ!」
バンッと大きな音をさせて、ドアが開いた。
上総んが真っ赤な顔に汗をいっぱい滲ませて飛び込んできた。
肩で荒い息をしながら、私に近づいてぎゅーっと抱きしめた。
「学美……頼むから……結婚して。もう、俺……こんな想いしたくない……」
涙が私の髪に、頭皮に降ってきた。
泣いてる……。
上総ん、本気だ。
本気で、私と結婚しようとしてる。
……結婚……。
思わず私は、両手で上総んの胸をドンと強く押して突き飛ばした。
ゴホッと咳をして上総んが胸を押さえた。
「別れる。」
私の口からは、思ってもみなかった言葉が飛び出した。