「くやし~~~~!そんな資料があったなんて……。てか、なんで先に教えてくれんの!イケズ~!!!」
その日、私は加倉に新資料の存在を指摘されるという屈辱的な負けを喫して、本気で落ち込んでいた。
「ホント。あいつ、性格悪いよな。」
M2の坂本氏が、そんなことを言いながら近づいてきて、コーヒーをくれた。
「どうも。」
そう言って、軽く頭を下げて、コーヒーを受け取った。
「だいたい、あいつ、生意気なんだよ。先輩を先輩とも思ってないというか。恥かかせて喜んでんだよ。」
坂本氏は調子にのってそんなことを言ったけれど、私は無言でコーヒーをすすった。
……心の中では、お前が馬鹿すぎて突っ込みどころ満載なんだよ!と、思いながら。
あー、めんどくさい。
てか、こいつら、本気でちゃんと勉強してるんだろうか。
全く分野も時代も違う、加倉や私の目から見ても穴だらけの論文しか書けないって、それでいいのか?
「ご馳走さまでした。ちょっと図書館行って、資料請求申し込んできます。」
そう言って、立ち上がる。
しょ~もない愚痴につきあってる時間が惜しかった。
「あ、俺も一緒に……」
子供じゃないんだから、うざいっつーの。
先輩の言葉を振り切って、私は院生研を出た。
上級生のレベルは、ハッキリ言って、そう高くない。
美子さんにいたっては、学部生レベルで、論文の体裁にすらなってない。
加倉が言ってた通り、野田教授の学生を選ぶ基準は……能力じゃないのかもしれない。
……峠くん……早くゼミに来ないかな。
もし本当に、私の割を食って、峠くんが院試に落ちたのなら……申し訳なさすぎる。
理不尽だ。
考えれば考えるほど、もやもやする。
ため息をついたけれど……顔を上げた。
済んだこと、あずかり知らなかったことで悩んでもしょうがない。
峠くんが入ってきた時に、恥ずかしくないように、私は私のできうることを精一杯しよう。
拳を握りしめて、図書館へと向かった。
瞬く間に、東京に来て1年が過ぎた。
私と加倉はM2になり、峠くんと神開という女の子が新たに入ってきた。
仲良くしてくださっていた1つ上の美子さんは博士課程には行かず、野田教授の手腕で埼玉の博物館で嘱託職員として働きはじめた。
……元祖ゼミクラッシャーと呼ばれていた美子さんも最後はおとなしいものだった……私生活では相変わらず無意識にヒトを振り回してくれたけど。
残った先輩がたは、ゼミのたびに加倉と私に突っ込まれ続けて……何となく雰囲気がギスギスしてきたかもしれない。
「だーかーらー!私がいなくなって、池尻さんが遠慮なく紫原さんをいびり始めたのよ。感じないの?」
久しぶりに院生研に遊びに来た美子さんは、現況を分析してそう指摘した。
「いびる……とげのある発言や小さなしょーもないイケズは以前から感じてましたが……むしろ、美子さんがいなくなって、池尻嬢は野田先生におおっぴらに媚びるようにならはった気がします。」
美子さんは苦笑した。
「めんどくさいことになりそうね。野田教授、身贔屓強いから。池尻さん、もともと快く想ってなかった紫原さんをつぶすつもりかもね。」
つぶす……。
ため息がこぼれた。
その日、私は加倉に新資料の存在を指摘されるという屈辱的な負けを喫して、本気で落ち込んでいた。
「ホント。あいつ、性格悪いよな。」
M2の坂本氏が、そんなことを言いながら近づいてきて、コーヒーをくれた。
「どうも。」
そう言って、軽く頭を下げて、コーヒーを受け取った。
「だいたい、あいつ、生意気なんだよ。先輩を先輩とも思ってないというか。恥かかせて喜んでんだよ。」
坂本氏は調子にのってそんなことを言ったけれど、私は無言でコーヒーをすすった。
……心の中では、お前が馬鹿すぎて突っ込みどころ満載なんだよ!と、思いながら。
あー、めんどくさい。
てか、こいつら、本気でちゃんと勉強してるんだろうか。
全く分野も時代も違う、加倉や私の目から見ても穴だらけの論文しか書けないって、それでいいのか?
「ご馳走さまでした。ちょっと図書館行って、資料請求申し込んできます。」
そう言って、立ち上がる。
しょ~もない愚痴につきあってる時間が惜しかった。
「あ、俺も一緒に……」
子供じゃないんだから、うざいっつーの。
先輩の言葉を振り切って、私は院生研を出た。
上級生のレベルは、ハッキリ言って、そう高くない。
美子さんにいたっては、学部生レベルで、論文の体裁にすらなってない。
加倉が言ってた通り、野田教授の学生を選ぶ基準は……能力じゃないのかもしれない。
……峠くん……早くゼミに来ないかな。
もし本当に、私の割を食って、峠くんが院試に落ちたのなら……申し訳なさすぎる。
理不尽だ。
考えれば考えるほど、もやもやする。
ため息をついたけれど……顔を上げた。
済んだこと、あずかり知らなかったことで悩んでもしょうがない。
峠くんが入ってきた時に、恥ずかしくないように、私は私のできうることを精一杯しよう。
拳を握りしめて、図書館へと向かった。
瞬く間に、東京に来て1年が過ぎた。
私と加倉はM2になり、峠くんと神開という女の子が新たに入ってきた。
仲良くしてくださっていた1つ上の美子さんは博士課程には行かず、野田教授の手腕で埼玉の博物館で嘱託職員として働きはじめた。
……元祖ゼミクラッシャーと呼ばれていた美子さんも最後はおとなしいものだった……私生活では相変わらず無意識にヒトを振り回してくれたけど。
残った先輩がたは、ゼミのたびに加倉と私に突っ込まれ続けて……何となく雰囲気がギスギスしてきたかもしれない。
「だーかーらー!私がいなくなって、池尻さんが遠慮なく紫原さんをいびり始めたのよ。感じないの?」
久しぶりに院生研に遊びに来た美子さんは、現況を分析してそう指摘した。
「いびる……とげのある発言や小さなしょーもないイケズは以前から感じてましたが……むしろ、美子さんがいなくなって、池尻嬢は野田先生におおっぴらに媚びるようにならはった気がします。」
美子さんは苦笑した。
「めんどくさいことになりそうね。野田教授、身贔屓強いから。池尻さん、もともと快く想ってなかった紫原さんをつぶすつもりかもね。」
つぶす……。
ため息がこぼれた。