「かっこい~~~~!マジ、かっこいい!すごい~~~!素敵過ぎる~~~!」
美子さんがジタバタと両手両足をばたつかせて騒いだ。
「めっちゃイイヒト。……お前、ひどすぎ。マジで紫原のどこがいいんだ?」
加倉の言う通りかもしれない。
「物珍しいんじゃないの?」
そう言って、私はお茶漬けのお茶碗をよけて、残ってたお酒を飲み干した。
「紫原さん、ちゃんと食べなきゃ。上総(かずさ)が心配してたじゃないの。」
美子さんはそう言って、私の目の前にお茶碗をドンと置き直した。
「……マジで少食なんです、私。これ、すごく美味しいんですけど、ご飯がおだしを吸ってふくれちゃって食べ切れなくて……」
「だったら、酒、飲むなよ。」
加倉にまでそう言われてしまった。
結局、お茶漬けを食べきるまで、帰らせてもらえなかった。
とっくに冷めてしまったお茶漬けを、給食を食べきれない居残り小学生のように半泣きで食べさせられた。
23時過ぎにようやくお店を出る。
……なんと、上総んが私達の分まで支払ってくれたらしい……ツケだろうけど。
美子さんと加倉はいたく感動していたけれど、私は苦笑いしか出なかった。
かっこつけて……。
店の前からタクシーに乗った美子さんを見送ってから、加倉と私は歩き出した。
「俺も今度、歌舞伎見てみよっかな。」
突然、加倉がそう言い出した。
「加倉、専門は大名家の能楽やったっけ?……逆に何で今まで見てへんのか不思議やわ。」
私がそう言うと、加倉は鼻で笑った。
「歌舞伎って、無駄に派手で大袈裟じゃん。日本人っぽくないと思わん?」
私も鼻で笑い返してやった。
「加倉、荒事(あらごと)しか知らんにゃ。和事(わごと)とか世話物(せわもの)とか松羽目物(まつばめもの)とか、ちゃんと日本人らしい腹芸(はらげい)の芝居もいっぱいあるで。」
加倉はしげしげと私を見た。
「紫原って、見た目とのギャップすげぇな。どう見てもめちゃおとなしい美女で、接点も話題もないと思ってたけど、お前、中身、男なのな。闘争心の塊(かたまり)?ゼミが楽しみになってきた。」
変な奴。
……て、ゲイだから、女々しいのが苦手なのかな。
美子さんに対しても、先輩だから気は遣ってるっぽいけど、けっこうぞんざいだったかも。
「美女じゃない。これ、上総んのメークで作った顔。素顔はもっと地味。てか、自分でメークしてもこの顔にはならへんから、上総んと別れるまでの幻想。」
私がそう言うと、加倉は顔をしかめた。
「何?お前、あのヒトに化粧までさせてるの!?……マジ、ひでぇ女。」
「う……。だって……。」
言い返せなくなった。
確かに、甘えすぎだと自覚してるから。
でも……だって……最初は確かに抵抗あったけど……今は気持ちいいんだもん。
メークしてもらうのも、髪を洗ってもらうのも、セックスと同じぐらい好き。
お世話してくれるのがうれしいのかもしれない。
「ここ?へえ。あのヒトらしいな。」
古い民家にしか見えない外観を見て、加倉はそう言った。
美子さんなら、眉をひそめそうなボロ屋なのに。
「加倉っておもしろい。むしろ意外じゃない?」
すると加倉は鼻で笑った。
「俺は、物事の本質を見るからな。じゃあ、帰るわ。」
そう言って立ち去ろうとした加倉を思わず引き止めた。
「お茶でも飲んで行けば?」
言った私も、言われた加倉も、変な顔をしてしばし見つめ合ってしまった。
美子さんがジタバタと両手両足をばたつかせて騒いだ。
「めっちゃイイヒト。……お前、ひどすぎ。マジで紫原のどこがいいんだ?」
加倉の言う通りかもしれない。
「物珍しいんじゃないの?」
そう言って、私はお茶漬けのお茶碗をよけて、残ってたお酒を飲み干した。
「紫原さん、ちゃんと食べなきゃ。上総(かずさ)が心配してたじゃないの。」
美子さんはそう言って、私の目の前にお茶碗をドンと置き直した。
「……マジで少食なんです、私。これ、すごく美味しいんですけど、ご飯がおだしを吸ってふくれちゃって食べ切れなくて……」
「だったら、酒、飲むなよ。」
加倉にまでそう言われてしまった。
結局、お茶漬けを食べきるまで、帰らせてもらえなかった。
とっくに冷めてしまったお茶漬けを、給食を食べきれない居残り小学生のように半泣きで食べさせられた。
23時過ぎにようやくお店を出る。
……なんと、上総んが私達の分まで支払ってくれたらしい……ツケだろうけど。
美子さんと加倉はいたく感動していたけれど、私は苦笑いしか出なかった。
かっこつけて……。
店の前からタクシーに乗った美子さんを見送ってから、加倉と私は歩き出した。
「俺も今度、歌舞伎見てみよっかな。」
突然、加倉がそう言い出した。
「加倉、専門は大名家の能楽やったっけ?……逆に何で今まで見てへんのか不思議やわ。」
私がそう言うと、加倉は鼻で笑った。
「歌舞伎って、無駄に派手で大袈裟じゃん。日本人っぽくないと思わん?」
私も鼻で笑い返してやった。
「加倉、荒事(あらごと)しか知らんにゃ。和事(わごと)とか世話物(せわもの)とか松羽目物(まつばめもの)とか、ちゃんと日本人らしい腹芸(はらげい)の芝居もいっぱいあるで。」
加倉はしげしげと私を見た。
「紫原って、見た目とのギャップすげぇな。どう見てもめちゃおとなしい美女で、接点も話題もないと思ってたけど、お前、中身、男なのな。闘争心の塊(かたまり)?ゼミが楽しみになってきた。」
変な奴。
……て、ゲイだから、女々しいのが苦手なのかな。
美子さんに対しても、先輩だから気は遣ってるっぽいけど、けっこうぞんざいだったかも。
「美女じゃない。これ、上総んのメークで作った顔。素顔はもっと地味。てか、自分でメークしてもこの顔にはならへんから、上総んと別れるまでの幻想。」
私がそう言うと、加倉は顔をしかめた。
「何?お前、あのヒトに化粧までさせてるの!?……マジ、ひでぇ女。」
「う……。だって……。」
言い返せなくなった。
確かに、甘えすぎだと自覚してるから。
でも……だって……最初は確かに抵抗あったけど……今は気持ちいいんだもん。
メークしてもらうのも、髪を洗ってもらうのも、セックスと同じぐらい好き。
お世話してくれるのがうれしいのかもしれない。
「ここ?へえ。あのヒトらしいな。」
古い民家にしか見えない外観を見て、加倉はそう言った。
美子さんなら、眉をひそめそうなボロ屋なのに。
「加倉っておもしろい。むしろ意外じゃない?」
すると加倉は鼻で笑った。
「俺は、物事の本質を見るからな。じゃあ、帰るわ。」
そう言って立ち去ろうとした加倉を思わず引き止めた。
「お茶でも飲んで行けば?」
言った私も、言われた加倉も、変な顔をしてしばし見つめ合ってしまった。