美子さんは、ん~……と考えて、言った。
「何か、しらふで昼間っから、それも学食でする話じゃないわね。ね?まだ講義もゼミもないわよね?今日の予定は?」
「今日は……図書館でマイクロフィルムを見るぐらいなので、特に何もないです。」

すると美子さんが私の手を取った。
「じゃ、飲みに行こっか。」

え?今から?
びっくりした。
でも……何だか、楽しそう。
「はい!」
美子さんの手を握り返して、ニッコリ笑い合った。

院生研に戻らず、私達はそのままポカポカ陽気に誘われて外へと出かけた。
てっきり、お酒が飲めそうなカフェにでも行くのだろうと思ってたら、美子さんは公園でのお花見を提案してきた。
コンビニでお酒やお菓子を買って、ベンチに座って缶ビールで乾杯。
……何もかもが初めての経験で、新鮮だった。

2缶めを半分ぐらい飲んだところで、美子さんがつぶやいた。
「後悔だらけよ。でもそれは、不倫をしたことに対する後悔じゃないの。もっと素直になればよかった。もっと優しくしてあげたらよかった……って、そういう後悔。彼を好きになったことに悔いは1つもないわ。」

……強い人。
改めて、一見たおやかな美子さんの潤んだ瞳にみとれた。

それにしても、真っ昼間の公園でビールを飲む心地よさは格別だった。
アルコールに強いはずの私も、何となくイイ気持ちになってくる。
既に頬も目も赤い美子さんほどではないけれど、私も多少は酔ったのかもしれない。

「美子さん、かっこいー。何か、オトナの女ですね。そっかー、そうですよね、うん。自分さえしっかりしてれば、失恋前提の恋も踏み台にできますよね。不倫になっても、ならなくても、今は考えるのやめた。」

でも、美子さんは慌てて止めた。
「いや、それはダメ!ちゃんと考えよう?事情わかんないけど、成就する道もあるでしょ?どうして、別れること前提なの?」

そう聞かれて、私は逡巡した。
……言っていいのかしら。
「相応しくないんです。私では。彼の役に立てない。」
なるべく一般的な言葉を選んでみた。

「……彼氏さんご自身がそう仰ってるの?」

そう聞かれて、私は慌てて首を横に振った。
「でも、彼以外はそう思ってます。」
そう答えた途端、私の目からホロホロと涙がこぼれ落ちた。
……やっぱり酔ってるかな。
グシッと豪快に鼻をすすって、3缶めのビールを飲み干した。

「……女2人で、何やってんですか?公園で酒盛りっすか?昼間っから極道ですね。」
呆れたような声でそう声をかけられた。
振り返ると、同期が顔をしかめて立っていた。

「加倉くん!もぉ!女嫌いだからって、そんな言い方ひどぉい!」

え?
女嫌い?
美子さんの言葉に驚いて、加倉くんをマジマジと見た。

加倉くんは、ばつの悪そうな顔になり、頭をかいた。
「美子さん、勘弁してくださいよ。絡み酒、たち悪いっすよ。」

「……加倉くん……そうなんや。」
どおりで、私に興味ないわけだ。

なんだか、ホッとした。