日下さんの件とさほど進んでいない進行状況を報告すると、訂正に訂正を塗り潰し、完成した1週間分のスケジュール表を手に取った。

「あちこちの下請けに、キャンセルの電話を入れて工程を乱したのは日下さんじゃなかったです。別の、誰かはまだ判明してないんですけど、この部署以外の人です。これがその人の携帯番号です」

 工程表の隅に記入した番号を指でさす。顔色一つ変えず、示した箇所に焦点を合わせた島野さんに続ける。


「島野さんは、日下さんを疑ってましたか? 日下さんだと思ってましたか?」

「…確かに。一番怪しいのは日下だろうな、疑われても仕方ない要素はあった。お前はどう思ってたんだ?」

「私は…、何かの間違いか、佐々木さんの勘違いだったらいいのに。日下さんじゃないって…、思ってました」

「例え1人でも信じてくれる奴がいれば救われるってもんだ。あいつは誤解されやすいからな。あの生意気な態度といい、口の効き方といい。冷めた奴だが情はある、あいつも負けず劣らず仕事熱心。俺は日下の所業ではないと最初から解っていた」

 心の中で深く何度も首を縦に振っていると、聞き捨てならない言葉を発したから、見開いた瞳で島野さんの顔を見つめた。


「最初から、解っていた…? って、だって…、あの中で島野さんが一番怪しんでたように見えましたよ?」

「馬鹿め、敵を欺くにはまず味方から。だ」

「どういうことですか?」

 意味がわからないと顔を顰めれば、さも愉快そうにニッと口角を上げた。


「日下の言葉を借りるなら、信じられるのは自分だけだってことだな。まあ、日下は放っておけばいいとして。佐々木は彼女が出て行ったから荒れていた、ってことにしてだな。1人でここまで仕上がったのならまずまずだ。今日のところは帰っていいぞ?」

「え、あっ、…もう少し進めてからにします」

 扉の方へ歩き出す島野さんにそう声を張り、消え行く後ろ姿に慌ててテーブルの上を片付ける。