「…ところで、何か解ったか?」

「それが…。ちょっと、待ってください。そのままで待っててくださいね」

 繋がったままの携帯をポケットの中へ一度預け、カップ片手にドアノブに手を掛ける。休憩室をそそくさと抜け、会議室へと戻る。


「…もしもし、すみませんでした」

「ガチャガチャうるせぇよ」

「すみません…。旭川の件、調べようとシステム覗いたんですけど、3月12日に什器を手配したのは島野さんだったんですけど、そのあと部品が発注された記録は出てこなかったんです。受注入力、発注入力、どこにもないんです。手配されていなくて」

「どういうことだよ?」

 スケジュール調整の合間に調べ尽くした内容を伝えると、不機嫌そうだった声色が驚きに変わる。


「故意に消されたとしか解らなくて」

「発注漏れはなかったってことになってるのか?」

「そうなります。それで、よっしー…、じゃなくて総務課の吉平さんが言うには入力したものは誰でも消すことはできるけど、記録されたものは消すことはできないから、ログ見てくれるって言ってくれて、でも…。今日は手一杯だから明日って…」

 明日まで結果は出ないことを怒られる覚悟で、恐る恐る口に出す。何か言われる前に再び口を動かした。

「あっ、それと…」

 謎の携帯番号の持ち主も調べてくれると約束してくれたことを告げると、意外そうにこう言った。

「へぇ…。お前にしては鋭いじゃねぇか。行く先々でお前のこと聞かれるのはそれでか」

 とりあえず、褒められていないのだけは解る。

「…その怒鳴られたっていう下請け教えろ。これから何社か回るしかねぇか。それでも門前払いされたら縁がなかったって諦めるしかねぇだろ」


 会議室の扉が開けられたのは、日下さんとの電話から3時間が過ぎていた。

「もうみんな帰ったぞ」

 様子を見に来てくれたのだろう。島野さんがやや疲れた顔を見せ、ツカツカとやってきて隣に並ぶ。