システムと睨めっこし頭を悩ましたところでタイミングよく、よっしーからの着信を受ける。

「紗希、ごめん。野村さんに聞いた、来てくれたんだってね?」

「私の方こそごめん、忙しいのに。調べて欲しいことがあって…」

「…確かに、それって奇妙だわ。今日はほんと厳しいから、明日にして」

 調査内容を簡潔に伝えると、そう言い切られてしまい通話を終えた。


 今日中には解決しない、明日はどうだろう。

 気が付けば会議室に籠ってから4時間が経ち、時間は17時を過ぎていた。曇り空とはいえ外はまだ明るくて、もうこんな時間。と、壁の時計に視線を合わせ手を止める。

 どちらにしてもこの時間では、無理強いはできないし仕方ない。焦ってもしょうがないと、逸る気持ちを閉じ込める。


「日下さん、大丈夫かな…。佐々木さん、どうしちゃったのかな…」

 日下さんは多分、私にだけは心配されたくないだろうし、佐々木さんだって気にされなくないだろうけど。何度か鳴らした電話に2人は応じなかった。


 身を顰めるように会議室を出て、まるで疚しいことがあるみたいに忍び足で休憩所へ進む。誰にも気づかれることなく済ますのが一番。ガラスのパーティションに映る姿はどう見ても怪しい人だ。


 コーヒーの香りに少しばかし頭がすっきりとする。一息吐いたところでポケットに入れてきた携帯が振動し、音を鳴らしたわけじゃないのに周りを見回してしまう。


「はい、柏木です」

 こそこそと出れば、相手は「あぁ、知ってる」と、耳に届く明け透けな口調。

 もちろん私にかけたんだから出たのが私なのは知っているだろうし、私だって電話の相手が日下さんだってことは、登録してある名前が表示されたのだから見て知っている。ぶっきらぼうなのは電話でも変わらない。


「工藤なら平とサワイクラフト。その後、消息不明」

「…聞いてませんけど?」

「知りてぇのかと思ったけど?」

 このいらない情報の処理をする能力はなく、黙り込んだ私に上機嫌な笑い声を上げた。目の前にスクリーンがあったとしたら、電話の向こうで嘲笑う顔を映し出すだろう。