だだっ広いテーブルの端っこにどさりと荷物を下ろす。1人で作業をするにはあまりの広さに、早くも途方に暮れてしまいそうになる。


 キャンセル扱いとされた取引先は、ざっと目を通しただけでも20社を超している。中には当社からの依頼を1ヶ月請け負っている会社もあって、充てにしていた仕事がなくなるのだ。

 平謝りして許しを請うしかない。新規の取引を開拓するより、駄目元で片っ端から電話をかけ再依頼ができるかどうか。スケジュール表に則ってそのまま割当てられるのがベストな方法。

 だけれど、そう甘くはないのが建築業界であって、腕勝負の職人にはこちらの都合のいい申し出は一切通用しない。契約違反じゃないかと怒鳴られ、お宅の仕事は請けないと電話を切られた取引先が数社に上った。


 怒号を続け様に受ければ、携帯電話をないがしろに放置する時間が長くなり、段々と気持ちが萎びて滅入ってくる。しょげ返っている場合ではないのだろうけど、こうも続くと発信ボタンを押す指が躊躇する。


 合間に事務作業を進め、電話を掛ける。叱責を浴びせられては、通常業務へ目を背けて。当然ながらどれもこれも思うように捗らない。


「足掻き足りないんじゃないのか?」


 部長の憎たらしい顔が浮かび、佐々木さんのミミズが這ったような解読不能の文字に、つい厳しげに目を細め憮然と溜め息を零す。


 眉間の皺を指で均し重苦しい息を吐き出す。ふと、目を止めた会社名に懐かしさを覚え、考えるよりも先に携帯のキーを操作していた。
 
「ルミエールサプライの柏木と申します。お世話になっております」

「あれ、柏木さん? いやあ、久しぶりだね」

 相手は豪快に笑ってしみじみとした声色を出した。本村さん宅の工事で日下さんに紹介してもらった工務店の社長さんだ。


「ご無沙汰しております。社長、この度は大変申し訳ありませんでした…。え…、日下が、ですか?」

 挨拶も早々に、社長の口から出た名前に思わず言葉が詰まる。