話を途中で強制終了させこの場から手際良く人払いをすると、前のめりに腰を折り曲げ薄くなった書類の束に別の書類を重ねる。一部始終をぼけっと傍観していた私に小声で耳打ちをした。

「まず、一課の分と併せてスケジュール調整してくれ。施工班には連絡の手違いがあったことになっている。施工総出で何とか動いているが、限度がある。ハードな調整でも構わないから現場を止めないよう組んでくれ。それこそ信用問題に穴が空きっぱなしだ」

 そこまで言って一呼吸をし書類の一番上の用紙に指を置くと、すぐに言葉を繋ぐ。


「平の件はさておき、このことを知っているのはあの場にいたメンバーだけだ。事は最小限で済むよう水面下で動け、他言無用だぞ」

「はい…」


 大幅な調整を虐げられることになったいきさつは、他のみんなには知らされていない。

 工事指示書とセットで束ねられたスケジュール表には、大まかに1ヶ月分の予定が書き込まれてあり、取引先名の欄にところどころ赤く×印が記されている。

 日下さんがキャンセルの電話を入れた会社。そう意味を言い残し、自席に着こうとしている島野さんを目で追いかける。


 見上げると、眼鏡を鋭く光らせた視線に絡まれるも、引っ込められず沸いた疑問を投げた。

「どうして…、絶対なんて言ったんですか? 絶対って、どうして言い切れるんですか?」

「どうしてって、辞めないって確信があるからだろ。何、言ってんだ?」

 さも、おかしなことを言うな、頭大丈夫か。と、いうような表情を島野さんは顔面に貼り付ける。


 私は私で聞いておきながら、どんな意味合いであれ読み解くことなんてできないのに、身動きのできない心の内を解そうとしてしまうから、頭の片隅でよせばいいのにと溜め息を吐く始末。

「だから、どうしてなのか聞いているんです」

「どうして、どうして、ってうちの子供みたいなことを言うな。断言してもいいぞ。お前は絶対に辞めない、必ず心変わりする」

「…会議室で作業進めますね。ノート、占領しますけどいいですよね?」

「必ず」の二文字が過分に鼻につく。やっぱり、不躾な質問はやめておけばよかった。と、椅子を鳴らし腰を沈めた島野さんの視線には見て見ぬふりを決め込んで、幾つかの書類とノートパソコン、ずっしりくる鞄を抱え作業場を離れた。