当のよっしーはカウンターの奥で、今度は別の相手へ金切声を上げていた。

「…メールするって、もう1時間経ちましたよ、何時間待てばいいんですか! 日付変わるまで待てばいいですか!?」


「うーん、こいつは残業決定かな。出直した方がよさそうだね?」

「そうですね…」


 苦り切った表情で総務課から背を向けた別れ際。私と野村さんは頭を下げ、もう一度謝り合った。


 こんなにも丁寧な人だからこそ、直接渡さなかった考えの浅い行動に不快感が伴う。それと同時に、設計図紛失の原因は野村さんじゃないと確信に至る。



 何一つ進展しないまま作業場へと紛れ込み、落胆しきった体ごと椅子へ沈めた。

 室内を見渡せばそこそこ頭数が揃っているものの、トラブルや問題があったことを知らされていないのか、誰もが繰り返される日常と変わらず業務をこなしている。ファイルが数冊ここから無くなっていることも、まるで気づいていない様子。

 それぞれが様々な音を発していた。キーを打つ音、コピー機が唸る音、紙をめくる音にエアコンの作動音。多種多様な音が入り混じりつつ、飛び交っているはずの会話だけが失われた作業場。


 隣の席に目をくれるが、もちろん佐々木さんはいない。向かいの日下さんの席も当然ながら無人、一課の島だってがらんとしている。島野さんは未だ喫煙タイムだとしても、主要メンバーがいない作業場はこんなにも静かで。

 ぽつんと取り残され置いていかれるのはいつものこと。心に空いた穴に冷たい風が抜けるような寂寥を感じてしまうのは、それだけ、普段は無駄に騒がしいってことなんだ。


 ここを出る前より机の上には色々なものが増えていた。積み重なった見覚えのないクリップで止められた書類だとか。

 腰を下ろしたことで、紙の束の一番上に乗ったペーパーナプキンが数枚、風で舞い落ちる。現れたのは、清潔感がある真っ白な紙ナプキンで、ご丁寧にも二重に包まれた三角の形をしたアップルパイ。

 ただ全体を覆うのではなく、半分は器ともう半分は蓋みたいに包み込み、食べやすいよう配慮が施されていた。