半ば諦めモードで携帯をポケットへ押し込み、踵を返す。


 今、出来ることは限られている。日下さんが言っていた懸念に縋るしかない。自尊心みたいなものは持ち合わせていなくても、出来ることをやるしかない。


 途中、総務部総務課を覗くと、よっしーは受話器片手に何かを喚きながら、振り回していたコンビニのパンを机に叩き付けた。天板に命中したメロンパンらしきものはくたっと倒れる。


「…提出は今月中って連絡しましたよね!? では、未提出ってことで手続きが遅れても構わないんですね!?」

 年度末に併せて月末。そして、新入社員が入社する季節。総務部は経理課、総務課共に師走並みの忙しさ。時期が悪過ぎる。今日が3月31日でなければもっとすんなり事が運んで、話はスムーズだっただろう。


 止むことのないよっしーの激しい語調。電話の相手に申し訳ないが、よっしー相手では反抗したっていいことはない。3倍になって言い返されるだけで、大人しく書類を差し出すしかないのだ。


 声を掛けづらくてカウンターから様子を探っていると。

「あれ? 柏木さん?」

 思いがけず、掛けられた声に振り向くと、昨日会えなかった商品部企画課の野村さんがクリアファイルを手に立っていた。


「野村さん、お疲れ様です。あの、設計図のことですが、お手数お掛けしてすみませんでした」

「いやいや、謝るのはこっちそだから。わざわざ届けに来てくれたのに無くしちゃって申し訳ない」

「いえ、私も直接渡せば良かったのに、横着してしまったから…。本当に申し訳ありません」

 互いに謝り倒し、困った顔を見せ合った。


「柏木さんもよっしーに用?」

「はい、野村さんもですか?」

 私と平っち以外で、よっしーのことを呼び名で呼ぶのは野村さんと、事務所が隣り合う他の商品部の数名くらいだろう。


 クリアファイルをひらひらと掲げ、困惑の色を眉宇に漂わせた野村さんは肩で呼吸をする。

「そう、今日のよっしーは朝からご機嫌斜めなんだよね。調べ物があって他に頼れるのいないし、弱ったな」

「私も調べて欲しいことがあって、総務部で気軽に頼めそうなのがよっしーしかいなくて…」