忍ばせた厚みのある封筒の中身が誰かが書いたであろうパース図で、目の前の人物にそれが誰のかなんて、到底自白できるわけがない。

 上手い理屈付けを考え巡らせながら、眉を顰める。唖然とする私にお構いなしに、あとに続かないと解ったうえで、彼は紡がれることのない言い訳を待たずにドアを閉めた。


 バタンッと勢いづけて閉まる音が合図となって、車内の2人は一言二言会話を交わす。と、同時に車が勢いよく走り出したから、開け放した口から大きな声が出てしまう。


「日下さんっ! なんでっ…」


 発進前に一瞬、ちらっと様子を伺うように振り返った日下さんの、歪んだ高笑いが幻聴として聞こえてきそうで。思わず握り締めた持ち手がキシキシと心の奥ごと軋む。

 真っすぐに続く道に突然出現した下り坂から、急降下で転がり落ちているような気分。実に分かり難い状況下の真ん中に、意味深めいた日下さんのそれとない一言とまとめて置き去りにされた。



 せめて、憂わし気に沈んだ顔をした理由。別れたのが俺のせいだって告げた理由も置いて行ってくれないと、頭の奥の思考がそればかり気にしてしまう。


『お前が邪魔してるんだよ』


 どの程度、根に持っているのかはわからないけれど。思い込みの激しさは私の単細胞の比じゃないと思う。日下さんだって人のこと言えないくらい単細胞の持ち主だ。自分の言葉に対して私怨を抱き過ぎている。


 日下さんのせいじゃないのに。

 伝わらないもどかしさが過去の自身を責め立てる。大事なものが見えなかった代償は無関係なところにも及んでいた。



 もしかしたらと、日下さんが運転する車を馬鹿丸出しでしばらく待ってみたけれど、全くもって戻ってくる気配がない。

 聞こえのいいことを言って商品部をダシに使い、どうにかして車から降ろしたかっただけの動機じゃなかろうか。駆け引きが得意な日下さんのことだ、無くもないとさえ思えてくる。


「騙された…?」

 独りごちて、着信履歴から引っ張り出した日下さんの携帯へ掛けてみるものの、わかり切ったように電話に出ようとしない。運転中、のこのこ着信に応じるわけがないのだ。それでも、謀られたのかもしれない。そう邪念に駆られたのは必然だった。