「日下さんの名前を騙ったのも商品部が絡んでいますか?」

「結び付きがあるかどうかはこれから調べに行くんじゃねぇかよ。何度となくクライアントからダメ出しされたって、納得するまでとことん食らいつく。それと一緒だ。それが、俺の信念」

 と、説得力のある台詞とともに、私からファイルを全て取り上げた。


 日下さんの信念。これ見よがしに教えてもらわなくたって、この目で見てきた。追い掛けていたみんなの背中のうちの1人なんだから。苦い後味が残るのは、重々解っていてそれを言わせてしまったことだ。


 ところが、打ち消すかのように奪ったファイルを日下さんは事もあろうに、後部座席へ乱暴に放り投げた。バサバサッとシートから崩れ落ちるのは当然のこと。


 扱いの悪さに浅く張り巡らせた思慮が喪失し、呆れたように口を開く。

「…そのくらいのこと知ってます。嫌ってくらい見せつけられてきたので…。だけど、日下さん…。管理は粗雑だったかもしれませんけど、何もファイルを投げなくてもいいじゃないですか?」

「はぁ? …そこじゃねぇだろ。自分が単細胞だってことをちょいちょいアピールするんじゃねぇよ」

「え…、日下さん。アピール、…してませんけど」

「うるせぇよ。柏木、…もし誰かにファイルがなくなったこと探られたら、俺のせいにでもしとけ。まぁ、こんなもんなくなったところで、大騒ぎする奴もいねぇだろうけど。お前以外に。よく考えろ、システムにこの情報丸ごと入ってんじゃねぇかよ」

 馬鹿みたいに口を半開きにしている私に、「解ったらさっさと降りろ」と、それこそ馬鹿にしたような目でアピールする日下さんに従って、ドアを開けようと上体を左へと向けようとした時。


「これだけじゃねぇ。…お前等が別れることになったのも、俺のせいだ」

 助手席の扉が開けられ車内に吹き込んだ風の音で、日下さんの台詞が消されそうになる。


 自分のせい、伏し目がちにぽつりと雫のように滴り出た言葉は、聞き間違いかもしれない。