すると合わせた手が暖かい感触に包まれる。上から重ねられた両手は確認しなくても誰のものか分かる。こんなに暖かくて力強くて、でも優しい手。

『…ふんっ、二人とも合格だ。おめでとさん』

面白くない様子の島野さんの言葉に、『おおーっ』だとか『やったな!』だとか、みんなの歓喜な声と拍手がフロアに響く。

『ほんとに…? ほんとですか? ほんとに?』

『何で、お前が泣きそうになってんだ』

『え…、それは…』

『よし、忘年会も兼ねて合格祝いだな』

そう言い残してパーティションを抜けて行った島野さんの、後を追うかのようにガヤガヤとみんなが出て行って、静まり返る作業場。

自分のことのように嬉しくて、祈りが届いたんだという感動とが相まって、涙目になる私の両手に覆われた、彼の手に力が入る。

『祈り、通じたみたいだな?』

『…違いますよ。実力です!』

願いや祈りは自己満足、結果は実力と能力があったから。スキルは磨き上げた経験と取り入れた知識。才能は魅せ方次第。そう教えてくれた人の紛れもない実力だった。

『…それは。頑張ってって応援してくれて、こうして祈ってくれたからだよ』

と、もう一度両手に力を込められ、するりと離れて行った温もり。

『え…。でも、主任の実力ですよ?』

私一人が祈ろうが応援しようが、結果は付いて来ないのに、あまりにも真面目に祈ってるからそう言ってくれたのだろう。それが彼の優しさなんだと思っていた。

『製図にも受かったってことは…。一級建築士ってことですよね? おめでとうございます!』

『ありがとう。でも、そうやって言葉にされると照れくさい』

そうはにかんで頭をくしゃっと触る仕草に、笑みが漏れる。嬉しくて私も同じように頬が緩んでいた。いつまでも見ていたい笑顔があったから。