お店の雰囲気や仕上がり具合はパース図でイメージが出来上がっているが、小物や装飾、カーテンの生地、素材。インテリアに悩んでいるとのことだった。私の得意分野だったこともあり、奥さんとの話はどんどん膨らんでいった。

『…もう一度、洋裁やられてみては?』

『この間の話し気にしてくれたのね。工藤さんに話を聞いてもらったのよ。娘が小さい時は作った服をたくさん着てくれたのに、大きくなったら見向きもしないのよ。それで洋裁はやめてしまったの』

事情が飲み込めていない私に、聞かせてくれた奥さんはとても寂しそうだった。奥さんの隣でくつろいでいるパッチワークのぬいぐるみやクッションは、部屋に溶け込んでいて、本当はやめたくなかったように私には映った。

『…そうだったんですね。やらないのは勿体ないです、せっかくのミシンが泣いてます』

そう告げて、リビングの片隅でカバーが掛けられたミシンに目をやる。

『…そうね、今度は来てくれるお客様に楽しんでもらうために洋裁始めようかしらね? あら、私ったら替えのお茶も出さないで、ごめんなさいね』

『いえ、今日はこの辺でお暇します。生地の具合や色の相性、洋裁となると僕では頼りないと思いますので、インテリア装飾含めてアフターケア、何かあれば柏木が対応します。それと、娘さんが洋裁に興味がないのでしたらお店で提供するメニュー、一緒に考えてもらったりもできますよ』

『娘は料理は手伝ってくれるのよ。そうだわ、メニューね』

ぱちぱちと瞼を閉じたり開けたりする私は彼の顔を見つめるだけだった。それに気づいていながら話を進めていき、親身になって話を聞いてアドバイスをしているその隣で、私は存在を消すかのように黙っていた。

私が対応…。クライアントに会うのだって今日が初めてなのに。インテリアにアフターケアって、無理がある。