日下さんに助けられた次の日。この日は彼と一緒に外回りだった。

彼の運転する社用車は中心部を離れ、市内の外れに向かっていて段々と背の高い建物が見えなくなる。その車内で本村さんのお宅に経過報告をしに行くことを教えてくれた。

『ここ、ですか?』

『そう。見ての通り住宅は少ない。倉庫と雪で埋もれちゃってるけど玉葱畑。それと高校があるくらい』

辺りは一面雪が平たく積もっている。真っ白な景色の中には疎らな軒先、トタン屋根の倉庫が寒そうにぽつぽつ頭を出し、その先に浮かんでいる建物は学校だった。

『カフェのターゲットは学生。試験勉強やデート、溜まり場になるようなそんな店にしたいって。開店は新学期が始まる4月7日』

だから、壁の一片に黒板や掲示板が設置されるんだと納得した。

どこか現実離れした可愛らしい真っ白な三角屋根の建物は、この風景に似合っていた。除雪が行き届いた玄関までのコース。端には整列したイチイの木があり、恐らく夜にはライトアップされるのだろう。葉にイルミの電飾が垂れ下がっていた。

インターホンを鳴らし、玄関の扉から優しそうな50代らしき女の人が姿を見せる。

『工藤さん。いらっしゃい、待っていたんですよ。あら? 電話で言ってた方?』

『はい、アシスタントの柏木も連れてきました』

『柏木です。宜しく、お願い致します』

クライアントへの初挨拶に指先が震えた。挨拶の手順を事前に伝授された通り、名刺を差し出して頭を下げた。

『とにかく上がって、寒いでしょ。てっきり男の人かと思いこんでいたからカーテンの色とか相談できないわねって、主人と話していたの』

そう微笑んで奥さんはスリッパを出すと、私たちの背中を押し中へ入るように勧める。ソファへと促され、腰を落ち着かせ上着を横に置いた時、奥さんはコーヒーカップを乗せたトレイを運んできた。