『日下主任…、ありがとうございます! ほんと、助かりました』

『俺はお前を助けたんじゃねぇ、世話になってる工務店の為だ。それに、礼を言うのは早い、まだ決まってねぇんだ。気が変わらないうちにさっさと電話しとけ』

厳しい口調でそう浴びせられ、逸る思いで記載されてある電話番号をプッシュし受話器を上げた。

 
電話の相手は工務店の社長で、大雑把に納期、場所や平米数、近隣の状況などを聞かれ、それに答えている間。日下さんはパース図や大雑把に描かれた下絵のエスキースをぱらぱらとめくり、私の机を散らかした。

『ちっ。あのやろう、負けねぇからな』

舌打ちした日下さんを横目で気にしながら、こちらから図面をFAXで送信し、工務店の社長は戻って確認してから見積書を返信すると約束してくれた。

『…日下主任! 多分オッケーです。助かりました、ありがとうございました』

『そいつはどうも。これ、あいつのだろ?』

『はい、工藤主任のです…』

いつも競い合っていた二人だった。どちらかといえば日下さんの方が彼をライバル視していた。気が合う分、先を越されて悔しかったのか、負けねぇからなと吐いていたのに。

『勝つ気がしねぇんだよな…』

すっきりしない表情で、ぼそっと呟いて出て行った。