取引先からの見積もりが揃い始めたのが翌日だった。

ここは安いが納期にだらしない。こっちは高いけれどアフターケアしっかりしている。依頼をしたいがスケジュールが合わない。

この時期はどこも繁忙期、猫の手も借りたいくらいの人手不足で、まず工務店が決まらないと次に進めない。除雪で忙しい土木屋は降雪次第だった。片っ端から電話を掛けまくるのみ。

工事はまず、住居の一部を解体してから、そこから排水設備や電気配線の導線の整備。そしてまた大工が入る。その肝心要の大工が決まらない。

『まだ工務店決まってねぇのか?』

『あ、日下主任…。はい、まだなんです』

『うちの案件で頼んでる工務店がキャンセル食らって、この期間空いてるらしいんだ。おまんま食い上げだと、どうにかなんねぇか?』

広げた手帳のシャープペンでなぞられた1週間。

『ちょ、ちょっと待ってくださいね。…あと2日ずれないですかね?』

ペン先が当てられた日付より、2日遅くずれた場所へ指を置いた。

『そのくらいなら許容範囲、名刺もらってきたから電話してみろ』

胸ポケットから名刺を出し、人差し指と中指で挟んで差し出された。それを大事そうに両手で受け取り、その名刺の前で頭を深々と下げる。