『そうだ。今までは俺らと共同設計だったけど、建築士としての初の仕事ってこと。今、あいつはバーだったか手掛けているから、暇があるかどうか知らんが、あいつに聞くのが一番だ。頭ん中に全部入ってる』

『ここだ』と、頭頂部に人差し指を当てる。

『…そんな大事な案件、私じゃない方が…』

『そりゃ、あいつに取ったら大事だろうけど、舞い込んだ依頼はどれもこれも大事なんだぞ。小さいも大きいもない。そんなに大事って言うなら、柏木も慎重に大事に扱え。分かったか?』

『はい…』

『俺が教育したんだ、出来ないわけがないだろうが。まあ、お前の面倒を見てきたのはあいつだろうけど。それに、お前の初仕事でもあるんだ、工藤も嬉しいだろうよ? せいぜい頑張れ』

自分に聞くなと言わんばかりに、まるで他人事のように処理し去っていった。


1人デスクに取り残された。基本設計図と書かれたファイルには、平面図、立面図、展開図、断面図、配置図、什器図、設備図、詳細図。10坪程のカフェなのに図面ばかりが挟まっていて、早くも心が折れそうになる。

でも、これを1人で仕上げたんだと思ったら、感心するばかりだった。

建築士として、初案件。1人で設計した初めての店舗。

そう思ったら、自分のことのように嬉しさが込み上げて、図面を見てにんまりと顔を綻ろばせる。

さっきからこんな具合に、不安定な気持ちが居場所を求め、あちこちへとさまよっていた。


今回のは頼ってばかりもいられないと、気合いを入れ直す。

設備は設備屋に見積もりを出して貰えばいいし、施工はうちでやればいいからこれは後回し。問題は什器だ。自社製品ばかりじゃない上に、特に既製品はコストがかかる。

扉一枚発注ミスをすれば、扉の納品は時間がかかるだけじゃなく、扉がなければ壁が仕上がらない。内装も設備設置も遅れることになり兼ねない。まずは什器から慎重に拾い出していく。

その合間に、各設備会社数社へ見積書を要請し、商品部と施工班と打ち合わせ。