大通店の時の澤井部長は、意見を聞きたがるがその提案を飲むことはなく、あれもそれも取り入れようとするあまり、広さの問題にぶち当たり何度もプランニングを重ねた結果、結局打開策をまとめて仕上げるしかなかった。

 そんな大通店でできなかったものを、新店舗で実現したいのであれば話は簡単だった。あとは具体化するために綿密に案を練っていけばいい。効果的に集客率、売上アップ方法などを提示する。

 ただデザインを提案するだけじゃない。店舗を利用するお客様が居心地よく快適な空間にするために、陳列棚の高さ、奥行き、動線、様々な要素を配慮したデザインを落とし込む。尚且つクライアントの要望、ビジョン、予算等々考慮する。


「これで進めて行こう。企画書作らせるから、明日連絡するよ」

「宜しくお願い致します。すぐ図面起こしてお持ちします」

「ありがとう、わざわざすまなかった。感謝するよ」

「いえ、こちらこそありがとうございます。では、失礼致します」

 とびきりの営業スマイルを張り付けた彼は、私の肩に手を乗せ無理矢理体の向きを返させ、とっくに休憩を終えて作業を再開していたみんながいるブースへ歩き出した。

「ふう…」

 軽く息を吐いて、かっちりと締めてあった首元のネクタイを気持ち程度緩める。本来の任務が終了した証だ。


 何事もなかったかのように、様子を探りに長島さんの元へ近づいていく。

 ほんの一時間前、くだらない笑い話をしていたみんなは真剣な面もちで作業に当たっていた。

 冗談を言っていた佐々木さんが一番気合いの入った顔をしていた。キャスターが付いた移動式足場のローリングタワーに乗って、こちらに気づく様子はなく厳つい表情で傷や汚れの確認をしている。

「どうです?」

「後は微調整と、手直しがないかのチェックだけだ。プレオープンが無事に終われば一旦帰れそうだな」

「そうですか。俺らはこれで帰ろうと思ってるんですが、何かあります?」

「いや、大丈夫だ。悪かったな、助かったよ。柏木もお疲れさん、工藤もな。雪降ってるから気をつけて帰れよ」

「はい、お疲れ様です」

 二人の会話には参加することなく、私は頭を下げるだけだった。