だが彼はみんなのところへは見向きもせず、その反対を歩き進める。黙って後を追った場所。

「ここ…」

 そこは、ショッピングモール内に入店する[サワイクラフト旭川店]。

 ショップの前で、腕組みをして店内を見回す知った顔に、私は近づいていく。そこにいたのはサワイクラフトの部長だった。

「澤井部長、ご無沙汰しております」

「おお、柏木さん。待ってたよ」

 待ってたと言われ、約束した覚えがなくて焦ってしまう。それを表情に出ないよう笑顔を向けた。

 困惑している私の腕を掴み取った彼は、すっと一歩前に出て澤井部長に急遽刷ったであろう簡易な名刺を差し出した。

 いつの間に被っていたヘルメットを脱いだのか、ヘアスタイルを整えていて、完全に出遅れた私は呆然とする。

「お世話になっております。先程は突然連絡を差し上げて大変失礼致しました。工藤です。お忙しい中、押し掛けてしまい申し訳ありません」

 呆ける私に向けた背中越しでも伺える、毅然たる態度を示す。昂然と胸を張り、形式ばった前口上を述べた。

「いや、いや。こちらこそ旭川まで出向いてもらって申し訳ない。企画側と意見が割れていて困っていたところに、工藤さんからの電話だ。意見を聞かせてもらいたい」

「はい、早速ですが。こちらのスペースの使い道ですが…」

 会社で平っちに渡した資料の内容を踏まえた上で、更に仕上げたらしきものを手渡した。受け取った澤井部長は目を通している間、時折、唸り声を上げる。


 ああ、やられた。部長の差し金じゃなかった、この人が真の確信犯だったのか。

 二人のやり取りに相槌を打ちながら、真剣に聞いているように見せかけて心の中で呟いた。それを隠すように、広げた図面に指を当て話を合わせる。