女子トイレは、私たち2ー5の生徒でいっぱいになる。


「ヤベッ、誰か入ってる奴がいるじゃん」


敬太がそう言った理由は、一番奥の個室のドアが閉まっているから。


そのドアを閉めたのは私なので、本当は誰も入っていないのだけど、男子達は慌ててトイレから出て行こうとしている。


敬太も私の手を離して、逃げるように出て行こうとしているから、私はその腕を掴んで引き止めた。


「あそこだよ! あの閉まっている個室にお化けがいたの。
入っているのは女子じゃなくて、黒くてドロリとしたナニカなんだよ」


私の言葉で、敬太が足を止めた。

トイレから出たばかりの他の男子達も、またゾロゾロと戻ってきた。



「なぁ、本当に女子が入ってんじゃねぇよな?
俺、痴漢に間違われるのは嫌だぞ」


「大丈夫。女子じゃない。お化けみたいなナニカだよ。
私、ちゃんとこの目で見たもん。
敬太はそれを確かめに来たんでしょ?」



敬太は頷いて、トイレの奥に向けてゆっくりと歩き出した。

その後ろに私が続き、他のクラスメイト達も付いてきている。


私が立てた作戦はこう。

鍵が閉まっている個室を開けたら誰も入っていない。『何で⁉︎ 』『本当にお化けがいたのかも!』となるんじゃないかと考えた。


それは、『もしかしたら、いるのかも』程度の騒ぎで良かった。

敬太が私の話に興味を持ってくれるなら、それで良かった。


それなのに……。