一瞬、冗談かと思ったが、チーフは掛け布団を押えながら、体を起こそうとしたから、本気で言ったらしい。可愛い人だ。


「いいですよ、そんな事しなくて……」

「ごめんなさい。次からは脱がないようにするね?」

「そうしてくれると助かります」


 俺はチーフの髪を撫でながら、ゆっくりと口づけをした。

 チーフの唇は、小刻みに震えていた。さっきの事と言い、チーフはあまり経験がないらしい。そういう俺も、シラフでするのはいつ以来か、すぐには思い出せないほどだが。


 掛け布団の下に手を差し入れ、チーフのマシュマロのように柔らかな肌に指先が触れた瞬間、チーフの体がビクッとはねた。それに構わず手を伸ばしていったのだが……


「待って!」


 チーフが大きな声で言った。


「どうしたんですか?」

「知君、あのね……」

「はい」

「私…………初めてなの」


 …………えっ?

 一瞬、チーフはバージンかと思ったが、そんなはずはない。考えてみれば、“初めて”にも色々あるわけで、例えば、そう、昼間にするのは初めて、とか。そういう事なんだと思う。


「何が初めてなんですか?」

「こ、こういう事をするの」


 時間が止まったかのようだった。俺は頭の中が真っ白になり、言葉が出なかった。