日野みさきが、達人に言われた内容は以下の通りである。


なるべく魔導師組合の目が届く学校に赴任させる手配。


月山いりえを、教員か又は学校関係者として、その学校に赴任させる手配。


蕪木家の吸血鬼の能力を極力使わせないための結界と、学校関係者の洗脳活動。


以上を、非公式にお膳立てするのが、魔導師組合の日野みさきの役割となった。


全てが万事整った時に、蕪木家へ通達しに行く。


日野みさきは非常にめんどくさい役目を、達人から仰せつかった。


無論、日野みさきは拒絶したが、安陪晴明達人の命令は絶対だった。


渋々了承した日野みさきは、渋々だが作業に取り掛かった。



「何であたしがこんな面倒な事を!!」


部下に文句タラタラでいる。


「てか、許可しちゃ駄目じゃん!
いくら小学生と高校生が虔属で居るからって。
もっと妖怪以外の人間にも配慮しなきゃ。」


部下の佐藤はなだめる。

「教祖。組合No.2の実力を誇る貴女だからこそ首領はお任せに成られたんですよ。
人と妖怪の調整は、並の魔導師には無理です。
我々がいくら頑張っても、吸血鬼の王には太刀打ち出来ません。」


「解ってるわよ。でも、最近関わりが深すぎる気がするの。
私でもやがて吸血鬼に呑み込まれてしまうのじゃないかって。」


みさきの懸念は徒労ではない。


過去にも魔導師で在りながら、吸血鬼の虔属になり人に仇なす強力な妖怪に成った者もいた。


妖怪との交渉が行える程の魔導師が、妖怪に変化すればパワーバランスが大きく崩れる。

沢山の人が死に、妖怪も消滅してしまう。


あまりにもイレギュラーな存在になる吸血鬼の魔導師は、妖怪や魔導師にとって、凄まじく厄介な存在になるのだった。



「まあ、教祖の懸念は最もですが、月山様が力を貸してくれるのでしたら、仮に無還(むかん)に成ったとしても、バランスが崩れる程には成らないでしょう。」


「そりゃ、いりえは魔導師として首領にも匹敵するのは解ってるわよ。

ただ、あいつのコミュニケーション能力の低さが致命的なのよ・・・。
教師云々の前に、人として、大人の女として、破綻しているわ。」


二人は溜め息をついた。


因みに、(無還むかん)と言うのは、「無に還す。」と言う意味である。


「あっ!そうだ!!カウンセラーよ!
あの二人を心理カウンセラーとして、学校に赴任させれば良いじゃない!」


「しかも、魔導師組合で経営してる学校に!
あそこなら、全ての問題が解決するわ!
佐藤!至急取り掛かるわよ」


日野みさきに、起死回生の妙案が浮かんでいた。