「さてさて・・・どうしたものかのう・・・」


安陪晴明達人は鉄観音の申請した書類を眺めながら、頭を捻っていた。


達人は吸血鬼の特性を深く理解していた。

人の世界に踏み込ませる危険性も、虔属の特徴も把握し、分析していた。

今回の案件は余りにイレギュラー過ぎる。


過去に於いて、吸血鬼が白昼堂々と学校に通い、まして、教鞭を振るうと言う行為は、皆無であった。


彼等吸血鬼は、人が寝静まった夜に活動し、美女の生き血を飲み、ハーレムを築く事に終始した淫獣妖怪として認知された、言わば、非常にけしからん奴等である。


小さい子供にも好んで触手を延ばす吸血鬼に、小学生との接触は防がねばならないのがセオリーである。


が、


完全に覚醒していない鉄観音は、半妖なのだ。

つまり今は、人としての側面が強い。

人が含まれている以上、妖怪の法は当てはまらない。


なので、鉄観音が好きに人間の仕事を行ったとしても、罪には成らないし、責められる事も無い。

人間の発行するライセンスは、人に当てはまる物であって、半妖には当てはまらない。

即ち、都合よく何らかの力を使い、人間のライセンスを取得したとしても、人の法で裁かれる事は無く、妖怪の法にも抵触はすれども実質被害が出ない限り、裁けないのだった。



「う〜ん・・・。まあ、黙って教師になってしまえば良いものを、いちいち報告書まで作成して組合に提出したその心根に免じて、許可してやるか・・・」



達人は決裁印を押す。


「組合からも奴の通うであろう学校に誰か派遣しなければならぬな・・・」


「日野みさきの同期に、月山いりえと言う魔導師が居ったな。
あやつなら確か教員免許とかを持っておったので都合が良いな」


「いや、待てよ・・・。いっその事、我々の管理している学校に赴任させるか・・・」

達人は半紙を切り、瞬時に人形を作る。



「よし、式神よ。月山いりえの元へ飛べ。」


達人はふっと一息半紙の式神に掛ける。


みるみる半紙の式神は、ドアの隙間から飛び去っていった。



「日野みさきを呼びなさい。」


達人は、鈴を二度鳴らす。


清んだ音が部屋に響いた。