神井はやたらエネルギッシュな後輩だ。既存の脚本で淡々とやっていたこの部に、いきなり自前で脚本を書いてきた。今回の公演で、何度目かの脚本が認められ、一年生にも関わらず脚本と演出を任された。今日は部長の笠原がいなかったので、顧問の呼び出しに自ら単身で職員室に乗り込んで行った。
 相変わらず大胆というか恐れを知らないと言うか、真っ直ぐすぎて眩しいくらいだ。最近は驚くことも忘れてしまっていたが、ついて行ってやらなくて大丈夫だったかな。あいつなら大丈夫だとは思うが。

 最近、多恵が神井を気にしている事に、俺は気付いていた。多分、川村も気付いているだろう。彼女は男だろうと女だろうと、カッコイイ!と思うと興味を示して、懐く。多分、今回も神井の熱にやられただけだろう。俺の筋肉に向けられたのと同じ興味と関心ならば、しばらくすれば冷静になるはずだ。だが、無邪気に神井を目で追う彼女を見ると、なんとなく不安になりイライラしてしまう。

「告白れば良いじゃないですか。多分、OKでますよ。」川村の台詞が蘇る。

 多恵が俺を慕ってくれてるのは疑いようがない。だが、あくまで先輩としてだ。看板女優の清水由里を慕っているのとなんら違いはない。川村の言うように、告白ったら五割以上の確率で、YESの返事が貰えるだろう。だが、告白って、デートして、キスして、抱いて、俺が幸福の絶頂に浮かれていると、ある日言われる気がしてならない。

『お父さん、私、好きな人ができたの。』