今週、俺は3年。多恵は高校2年に進級した。1年前、入部してきた時の多恵は、おかっぱ頭で俯いていて、人見知りで憎まれ口を叩く、敬語も上手につかえない、人付き合いの苦手な、本当に地味な女の子だった。

 1年の間に、髪は肩よりも長くなり、躯は丸みを帯びた。誰より俺に懐いて、一所懸命仕事をして、少しでも褒めてやると、頬を染めて恥ずかしそうに笑った。憎まれ口に聞こえた言葉も、聞いてみれば彼女なりの正論で、きちんと議論すれば納得することばかりだった。

 生意気なほど賢くて、なのに俺にだけは従順で。このまま俺だけの少女にしておきたかった。だが、それも明日で終わりなのだ。これから多恵を欲しがる男が何人でも現れる筈だ。なのにその時、俺は傍にいてやれない。

「多恵を抱きしめたいと思っているのは、俺だけじゃない。」

 川村も神井も、多分、多恵に好意を持っている。クラスにだっていないわけがない。。彼女を世間知らずで無垢なままにしておいたのは、俺にも多少の責任がある。