中学まではテニス一筋だった。だが伸び悩んでいた矢先に怪我をして、最後の大会を棒に振った。怪我が治った頃には、高校受験シーズンに入り、結局俺はテニスをあきらめた。勉強の面白さや、テニス以外の世界を知ってしまったからだ。本気でテニスを続けたやつらは、高校も推薦で決めて、今でもテニス漬けの毎日を送っているだろう。

『そっかぁ。先輩の筋肉、カッコいいし、役に立つし、いいなぁ。』
 彼女は俺の躯を上から下まで舐めるように眺める。俺の躯が少し熱を帯びる。でも、彼女が見ているのは俺の肢体であって、俺ではない。

 彼女が俺に懐いて、俺を慕ってくれていることは、俺だって分かってる。こんな風に拗ねるのは、大人げないとも思う。

 そうしている間に彼女の興味は筋肉全般に移ったらしく、今度は川村の腕を見始めた。
『川村くんの腕も見せて。』
『いや、俺は運動はやったことないから。』
 彼女は強引に川村の腕をとる。川村はしぶしぶと言った感じで腕を出した。ひょろりと痩せた身体にみえたが、意外に筋肉はついている。脂肪が少ないせいか、力を込めるとそれなりの力こぶが出て来た。

『あっ!私のと全然違う!』
川村だって一応男だ。力こぶくらい出るだろう。
『なんか、ずるい。』
私だってちゃんと運動してたのに、と言いながら、彼女が頬を膨らませ、口をへの字に曲げる。その顔、可愛いからやめろ。

『しょうがないだろ。多恵は女の子なんだから。』
『でも、なんかずるい!』
そんなこと言ったって、お前が筋肉モリモリだったら、変だろ。ってか、俺は嫌だよ。そんな風に思ったのも、今では良い思い出だ。