冗談だ。真に受けるなよ。俺は笑って神井から視線を外し、再び歩き出した。神井も早足で追いついてきた。
「これで潔く引退できるな。この公演が終わったら受験勉強だ。」
「まだ、相当残ってますけどね。」
「そうだな。。」

 果たして、多恵を手に入れるのが神井なのか川村なのか、それとも全然別の誰かなのか、今は分からない。それ以前に、彼女自身が女として目覚めることを拒否している。今、不自然な形で手に入れて、浮かれ全てを失うよりも、しっかり勉強して志望校へ受かるほうが、結局は近道になると俺は知っている。

 それぞれ靴に履き替え、昇降口で立ち止まった。ここで別れるからだ。
「あいつは、紅一点だから、何かと扱いにくいし、よくわからんやつだが、川村と一緒に頼むよ。根はいい子なんだ。」
「ええ、知ってます。」
「だよな。」
「なんか、彼女のお父さんみたいですね。」
「お前な、人の傷を。。」
 ブラックなジョークに苦笑いを返した。