「。。。。。。お父さんって言われた。」
「へ?」
「呼び間違えたんだ。俺の事、お父さんって。」
「誰が?」
「多恵。」

 神井はプッと噴き出して笑った。
「彼女なら言いますね。」
「そんなに親父臭いかな?」
「いえ、そんなことは、、、信頼してるんじゃないですか?」
「そうだろうけど、なんか、ショックで。」
「そうですか?良いじゃないですか。一番安心できる相手ってことですよ。」
 苦しい言い訳だな。だったらお前は多恵にお父さんって呼ばれたら、嬉しいのか?

「でも。。。。男として見られてないよな。」
 足下を見ながら階段を降りていた神井の脚が止まった。
「まあ、わかってたけどな。」
 俺も立ち止まって、天井を見上げた。大きく息を吐いて気分を入れ替える。あらためて振り返ると、困った顔で俺を見ている神井と目が合った。もしも、もしも多恵がお前を選んだなら、お前はちゃんと多恵を慈しんでくれるのか?大切にしてやれるのか?
 俺の視線に気圧されたのか、神井がごくりと唾を飲み込んだ。