「その男。」
「はい??」
「多恵は、その男が好きなの?」

 私が尋ねると、多恵は恥ずかしそうに俯いて目を逸らした。頬がみるみる赤くなって、何か言おうとしては躊躇い、口元に手をやっては視線を泳がせる。最後には目を潤ませながら、こくんと頷いた。
 ただ好きだということを、他人の私に言うだけで、涙が出ちゃう程、好きなんだ。
 なんて可愛らしい、真っ直ぐな恋だろう。見ているこっちまで切なくなって来る。本当に、この子はもう。。

「私のこと。可愛いって、、言って、くれて。。」

 そんなの。。。鈴木はきっと世界中の誰よりそう思ってたし、あんたの前でも何度も言った筈だよ。なのに、、、多恵にはちっとも聞こえていなかったんだね。

「そっか。」
「はい。」
「だったら、何も考えなくても、自然にそうなるんじゃない。多分。」
「そうでしょうか?」
「したら良いじゃん。好きなんでしょ?」

 私が訊くと、多恵はまた頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに小さく頷いた。

 安心したのか、目を潤ませて微笑む多恵は、本当に可愛くて、鈴木に見せてやりたかったなぁと、心の中で思った。こんなの見たら、きっと鈴木は泣いちゃうだろうけど。